2009年6月  1.経済活動における正義
 5月の教皇の意向では「対外債務の取り消し」が掲げられています。
 昨年からの世界の経済動向は、アメリカでのサブプライムローン問題が、大手金融機関のリーマンブラザーズの破綻を招き、その影響から世界最大の自動車会社GMの危機にまで発展しています。日本の経済も大きなダメージを受けて、2009年4月の有効求人倍率は過去最低の0.46となり、仕事を求める人に対して求人の数はその半分にも満たない状態となってしまいました。完全失業率も5.0に増加しました。昨年暮れから正月にかけて、派遣労働者の失業が問題化しましたが、人員削減の波は正社員にまで広がってきています。
 経済活動は、人間の感情を持ち込む隙がないほどに合理化され、すべてが需要と供給の関係で決定されると教えられてきました。確かにメカニズム全体は、経済の論理で動いているのですが、その運用は人間であり、そこにはすべての人間の尊厳を認める正義が貫かれていなければなりません。私たちキリスト者の姿勢は、まさに正義の推進ではないでしょうか。そして、経済活動の矛盾を、さまざまは社会政策によって補い、弱い立場にある人、苦しみの中にある人にも、人間らしい生活の機会を提供できるように努める責任があるのです。そしてその政策は、政治のプロセスから生まれてくるわけですから、私たちはキリスト者として、経済活動と同時に政治活動にも、正義の推進を掲げてかかわる責任があるのでしょう。
 国内の政治経済の問題を超えて、世界の政治経済も危機的状況にあります。生活保護などの社会政策が整っていない国々では、食料を買うこともできない人びとが困窮した生活を強いられています。世界中の食料は、もし平等に分配されるならば、一人も飢えることがないほど豊かに生産されているのですが、愚かな人間が公正に分配する知恵を持っていないがために、餓死する人びとが出てしまっています。その人数は何とも悲惨な状態です。国連世界食糧計画(WFP)の発表では、2007年から2008年にかけて、主に食糧価格の高騰を原因とし、1億1500万人もの人が新たに飢餓に陥りました。現在、世界の飢餓人口は10億人近くにまで上っています。世界の全人口のうち、およそ7人に1人が飢えているということになります。その上、金融危機が拍車をかけ、飢餓人口は今後さらに増えると見られています。
 教皇の意向によって貧しい国々の対外債務を取り消す運動にかかわりながら、今私たち一人ひとりができる正義の推進について、祈りの中で深めてまいりましょう。