2017年3月  4.除染という手法
 東京電力の福島第1原子力発電所2号機の原子炉がメルトダウンして、高濃度の放射性物質が放出されて、放射線被曝から身体を守るために、近隣の住民たちに避難指示が出されて、無人化された市町村も広域にわたった記憶は、消しさることができないほどのものでした。放射能汚染された地域に、一日も早く人が住むことができようにとなされた手法が、「除染」でした。
 除染とは、放射能汚染が生じた時に、放射性物質やその付着物を除去し、あるいは遮蔽物で覆うことで、人間の生活空間の線量を下げることです。放射性物質は、一度できてしまうと、自然界の中である一定の法則に従って放射能を発しながら崩壊を続けていくことになります。したがって、その物質を除去したり覆ったりしても、移動先や遮蔽された空間で、放射能を出し続けるのです。放射性物質の種類によって、発する放射能の時間単位の量が異なっていて、その能力が半分になる期間を半減期と呼んでいます。福島第一原発事故で大量に放出されてしまったセシウム137の半減期は30年で、物理的に放射線量が10分の1になるのに100年を費やすのです。したがって、除染したからといって、放射能が出なくなるのではなくて、人間の生活空間からその放射性物質を移動させるだけのことなのです。
 除染が進んだという表現は、せっせ、せっせと放射性物質を人間が生活する場の近くから遠くへ移動したことにすぎません。一定の法則に従って物質が自然崩壊する以外に、放射性物質はなくならないことを、はっきりと理解しなくてはなりません。実際に、除染という手法で表面の土を削って集めた放射能の濃度の高い土が、黒いシートに包まれて、そこここに置かれたままになっている光景は、今でも被災地福島で日常的に目に入ってきます。
 事故によって福島第一原発は稼働が停止していますが、原発を動かすということは、発電しながらあらたに放射性物質をつくることです。「安全だ」という表現は、放射性物質が絶対に漏れてこないように、遮蔽物の中に閉じ込めてあるということで、3月11日の地震をきっかけとした事故のように、閉じ込めていたものが放出されると、「安全」はたちまち「たいへん危険」な状況に一瞬のうちに変わってしまうのです。
 除染という手法で、あたかも放射能の危険から遠ざかったように理解しがちですが、一度(ひとたび)作られてしまった放射性物質は、かなり長年をかけて崩壊していくほかに、放射能を出さなくなることはないのです。日本の教会が「今すぐ原発の廃止を!」と訴えている理由の根拠は、このことにあります。
 放射性物質が崩壊しながら放射能を放出する原理をしっかりと理解し、広く日本の社会、そして世界に、核を用いたエネルギーを求めない社会の実現を、提言してまいりましょう。