2018年3月  5.絆の再構築
 事故や事件、そして災害は、人の絆を引き裂く大きなきっかけとなります。思い起こせば、1995年1月17日の阪神淡路大震災で被災された方々は、住み慣れた地域から仮設住宅に移らざるを得なくなり、それまでの絆が断ち切られしまいました。新しい絆を作ることが難しい高齢者は独りぼっちになって、そして生命をおとしていくいわゆる「孤独死」が社会問題となりました。
 その苦い経験を生かして、東日本大震災と原発事故によってそれまでの絆が断ち切られてしまった方々が、新しい絆で結ばれるように、行政も民間も手を尽くし心を尽くしたはずですが、人の心と心を結び合わせることはそれほどたやすいことではありませんでした。ボランティアの方々は「おちゃっこ」「傾聴」などで絆の回復を試みました。しかし、心の底に深い悲しみや苦しみを抱えている方々が、その心を開いて人と交わるには、時の流れのほかに何が必要だったのでしょうか。
 心をふさいでいる方々との絆を取り戻すためには、その冷たくなった心に寄り添う温かい心がいちばんだと言うことに、私たちは気づきました。さらに、その温かい心の持ち主は、かつて冷たい心を温めていただいた経験があることにも気づきました。出会いによって分かち合いのきっかけが生まれます。その分かち合いが、痛みの分かち合いにすすむと、そこに愛が生まれ、互いに支え合う絆が生まれます。このきわめて単純な人と人との絆が、幸せな社会を作っていくのだと、気づきました。
 日本の教会は、原発事故の記憶を保ち、すべての人間の幸福と尊厳を守る社会の実現のために祈るようにと奨めています。その祈りをささげながら、私と私の身近な人との絆が、さらに深く温かいものとなるように、そして絆の輪をさらに広げていくことができるようにと努めてまいりましょう。