2021年8月  3.世界経済と軍需産業
 日本では、平和のために祈りをささげる日々が続いています。広島と長崎での被爆の日、そして悲惨な戦争が終わった日を迎えるたびに、人々は口々に「二度とこのような戦争を繰り返さないために」と心の思いを語ります。その気持ちとは裏腹に、国際社会は「戦争を起こさないために」という名目で、抑止力としての軍備が進められている緊張の中での均衡構造から抜け出せないでいます。
 その背景には、複雑に絡み合う世界経済の仕組みと、人々の思惑が重なり合って、軍需産業が経済の根幹を支えるほどの規模で繁栄している状況が現存しています。日本が1945年に終結した第二次世界大戦の廃墟の中から、戦後の経済を急激に復興させた背景には、1950年の朝鮮動乱による軍需があったことは、紛れもない事実です。
 ひとくちに軍需といっても、その範囲は平時、戦時にかかわらず、国家が行う軍隊の活動を生産面でサポートする産業のすべてを指しています。ですから武器、弾薬、車両、航空機、艦艇などの正面兵器ばかりでなく、衣料、食糧、燃料、通信機器なども含まれています。そして、それを担っているのは、各国で超大優良企業といわれている組織がほとんどです。国家の存亡にも関わる産業ですから、品質や納期、情報の管理など、政府から信頼されていることがまずは肝心なことなので、日本でも東証一部上場の大企業が名を連ねています。これらの企業はもちろん民需の製品も供給しているわけですが、たとえ国家予算の1パーセントという枠が設定されているとはいえ、防衛費の予算規模からすれば軍需製品から得られる利益は、相当大きなものであることが分かります。
 さて、武器を捨てることが、平和への最短の道筋です。日本の教会も今月の意向で、この点を強調しています。ところが、軍需産業は、それぞれの国の経済、そして世界経済と複雑に絡み合っているために、その国の経済活動から軍需を取り除くことはとても難しいことになってしまっているのです。そして、私たちが預金している都市銀行からは、軍需に関わっている企業へ莫大な融資がなされていることを考えれば、私たち一人ひとりも、軍需、つまり兵器の製造に関わっていることになります。
 どこかで、抑止力を背景とした軍備拡大の悪循環を絶ち切らなくてはなりません。一人ひとりが、武器を捨てる道筋にあって、どのように知恵を働かせ、具体的な行動をとることが求められているのかを思いめぐらせながら、平和への祈りをささげてまいりましょう。