プールサイドにて
 友人の恭子さんの体験の分かち合いです。
 足に障害のある恭子さんは、リハビリも兼ねてプールに通っています。その日も、足の激痛などうそのように、プールサイド上を歩いていました。手に補助杖を持ち、心にオリンピック選手を想像しながら歩くその姿は、むしろさっそうとしています。
 そこへもう一人、脳性まひで手足が不自由な啓太さんも車椅子でやって来ました。恭子さんと啓太さんは、常連の50代。
 恭子さんが声をかけて、二人の会話が始まりました。
「あら、こんにちは。ねえ、あなたのその小さなくぼんだ右目、かわいいね。」
「そうかなあ、障害の後遺症だから、ぶかっこうとしか思ったことないけど。」
「それがねえ、ウィンクしてるみたいで、私は会うとうれしくなるの。これから毎朝、鏡を見るとき、その右目に『元気をくれてありがとう、おまえはかわいいよ』って言ってあげてね。」
「そう? じゃあ、やってみるか」と、啓太さんの表情がパッと明るくなりました。
 それから、恭子さんは啓太さんの具合を気づかって尋ねました。
「ところで、最近、調子はどう?」
「うーん、それが左手の痛みが強くて、日に日に動かなくなってね、もう元には戻らんと思う。」
「それは辛いね‥‥。あのね、毎晩寝るときに、左手を優しくさすりながら、こう言っていたわってあげて。『今日一日、よく働いてくれたね、お疲れさま、ありがとう。明日また、もうちょっと働いてもらえるかな。またよろしくね。今夜はゆっくりおやすみ。』って。」
「そうだなあ。じゃあ、さっそく今晩からやってみようか。」
「私ね、もし体に障害がなかったら、こんなに幸せ味わえなかったかもね、って思う。あなたみたいな人に会えるし、歩けることがこんなにうれしいし、毎日幸せを見つけられるし。」
「実は、僕もそう。体が痛いのはきついけど、不自由なおかげで、喜びがいっぱいあるよ。本当に幸せ者だと思う。障害をもって生きていることを、本当に感謝してるよ。」
 意気投合している二人の会話を、少し離れたところで聞いている人がいました。啓太さんの介護ヘルパーさとみさんです。次の週、さとみさんはプールサイドで恭子さんを見かけると、急いで近づいて話しかけました。「二人の話を聞いていたら、元気が出ました。ありがとう!」と。恭子さんは、自分たちの普段の会話がこんな形で人を励ましていたなんて、思いがけない影響にびっくりし、とてもうれしくなって、神さまに感謝しました。
〈東京 45歳女性 修道女〉
(出来事に聴く 56 2004/5/7)