たくましくなったA君
 私は、ある大学で学生生活の世話をしており、学内にオフィスを持っています。彼が2年生のときから出会ったA君は、友達のできにくい学生でした。部屋へ来てはボソボソとおしゃべりをし、話し終えると帰っていく日々が続き、友達ができ始めたのはずいぶん遅くなってからでした。
 A君が3年生になった年の秋、「今年のクリスマスの飾りを僕が作りたい。」と申し出て来ました。大学の正面玄関ロビーに、絵模様のステンドグラス(セロファンとクリアファイルを使って光を通す方法)を作成するというのです。横幅3.5m高さ2.5m、の壮大なものです。彼には、美術のセンスがありますが、彼の完全主義も手伝って、最初は孤独のスタートになりました。構成が決まって下絵が出来上がった後、製作のために残った時間は1ヶ月弱。私は、クリスマスまでの完成が危ぶまれて、それはそれは心配でした。しかし、残り1週間となった頃、ほかの多忙な学生たちの心にも火がつきました。自分の事を後回しにし、入れ替わり立ち替わり手伝いに現れ、タイムリミットの日、締め切りまぎわに飾り終えることができたのです。
 この作成過程には、面白いことがありました。途中で幼いイエス様の表情を出すのが とてもむつかしいと解ったのです。「どうしようか?」‥‥‥彼は考えたすえ、顔は輪郭だけにして、目も鼻も書かないようにしよう、と決めました。
 飾り付けが終わり、皆はほっとしました。しかし、それもつかのま、ハップニングです。2人の小さな姉妹が入ってきました。「かわいい~!」という妹の一言に、彼の表情はいかにも嬉しそう。けれども、次の瞬間その子が「でも、このイエス様顔がないね。描いてもいい?」と尋ねたのです。皆は、ドキッとしました。‥‥‥その妹の言葉に、一瞬考えた彼は「描いてくれる?」とその子にサインペンを渡しました。彼に抱き上げられた彼女によって髪の毛と目鼻が入れられたその作品は、全体がいきいきとしたものになりました。
 その時を振り返って、彼は「あの子が関心を持ってくれた喜びは、大きかった。だからとっさに『いいよ』と言った。」と言っていました。A君はこのあとグループのよいリーダーとして活躍し、この春大学を巣立っていきました。3年間の彼との関わりの中で、私は、一人一人の人間と寄り添って歩かれる神様の姿を目の当たりにしたと感じます。当初なかなか友達ができなかった彼との日々に、私は考え続けました。「いったい、彼とどう関わればいいのだろう?」と。‥‥‥鍵は、「私がどう関わるか」という所にはありませんでした。神様が時間の中で、最適の方法で彼を彼へと成長させてくださったのです。幼い女の子と彼のやり取りは、まさにそれが目の前に現れた出来事でした。その過程に寄り添い共にいさせていただいたことは、私にとっての大きな喜びであり、その日その時の学生と共に過ごす中に神様がいてくださることへの、大きな確信となっています。
〈広島 31歳女性 修道女〉
(出来事に聴く 58 2004/6/4)