娘の帰還
 私には二人の娘がおり、アパートで一人暮らしをしていた下の娘が我が家に戻ってきました。
 娘は、茶髪で、ミニスカートに厚化粧と、生活が荒んでいるような印象でした。わたしは、娘を何とかせねばという思いに駆られました。数ヶ月ぶりの家族揃っての食事の後、次女に、「着ているものや化粧などがけばけばしく、生活が荒んでいるようだな。」と努めて冷静に切り出しました。次女も、自分の考えなど率直に話してくれましたが、私たちの会話は平行線で、かさかさに乾いているような印象でした。次女は間もなく、二階の自分の部屋へ行ってしまいました。
 取り残された感じで妻と、次女のこれからのこと、どうしたらもっと分かり合えるかなどを話していますと、それまで黙って成り行きを見つめていた長女が、突然静かに決然とした感じで、一語一語噛みしめるように話し出しました。『パパとママは妹のことを話題にしているけど、ちっとも妹を思って話していないじゃない。今は、妹が家に帰ってきたことをもっと喜ぶべきじゃないの。パパとママから逃げ出した妹が家に帰ろうと決心して帰ってきたのは、本当に嬉しいことじゃない。髪の色が変だとか、服装が気に入らないとか色々あるかも知れないけど、妹が家に帰ってくることに比べたらどうでもよいことじゃないかしら。』
 私は、長女のひと言ひと言が腹の底に響き、圧倒されました。妻がそれにあいづちを打ちました。『そう、放蕩息子の話のとおりよ。帰って来たんだから喜んで迎えましょうよ。』と。
 私は、心が洗われる感じで、髪の色や服装や化粧はどうでも良くなっていました。次女を呼び、4人で麦酒で乾杯をしました。次女は何がどうなったのか分からないという顔でしたが嬉しそうでした。
 無条件の愛を分からせてくれたこの出来事に感謝するとともに、いつの間にか私を大きく飛び越えて成長した娘を嬉しく、眩しく感じました。
〈神奈川 60歳男性 自由業〉
写真: 山野内 倫昭
(出来事に聴く 65 2004/9/10)