卒業生からの電話
 私は、30年間以上、教員生活をしている。
 かっての教え子で今はもう30代半ばのOBから今晩も電話がかかる。心を患い、国立大学を中退して就職もせず、月2回の通院のほかは、今も家にひきこもっている。
 「生きていても仕方がないので死にたい。」「刃物もロープも外出の服も隠されてしまって無いから、餓死しようと思う。」「生きていても何もいいことが無い。自殺の道しか残されていない。」「家族にとっても、誰のためにも僕が死ぬことが一番いい。」「親や恩師の葬式に出られないような不孝者は死ぬしかない。」‥‥乱暴な物言いで、しかもいつもほぼ同じような内容だ。他に言うことは、信頼している友人に電話をしても取り合ってくれなかったり、居留守を使われたりしたといううらみごと。視力や体力の衰えなど身体の不具合。‥‥
 それでも、「点字を目視すると読めるけれども、触感では全然わからない」とか、点訳の学習などについて、一言二言ふれることもある。
 「こっちも生きていて何もおもしろいことも無い。せめてそんな僕にもう少し付き合ってくれてもいいではないか。付き合えよ。」と毎回同じような結びで電話を切る。会って話すことを提案する次第。こちらはそれしかできない。それで精一杯。
 彼を支えてきた両親も大変であるが、本人には更につらく苦しいことと思う。
 彼の担任をしたわけでもなく、2時間の授業を1年間だけ付き合っただけのつながりなのに、小さなきっかけから、定期便のように電話がかかってくるようになった。時々は会ったりもする。こんな付き合いがもう何年になるだろうか。「甘え」だけの関係といえるかもしれない。でもこれからもそんな彼を、しっかりと受け止めていこうと思う。罪深いわたしが神に受け止めてもらっているのだから。
〈兵庫 58歳男性 教員〉
(出来事に聴く 66 2004/9/24)