電車のなかで
 ある日、いつものように電車に乗ってゆられていると私の前に、中学生ぐらいの男の子が座り、マクドナルドのフライドポテトを入れ物ごと口元に持っていき、流し込むかのようにむしゃぶりついていました。食べ終わると空になった紙の入れ物がどこにも見えません。やがてマンガの本をとり出し、指を鼻に突っ込んでは 赤い血のかたまりの混じった鼻糞をほじくり出し、シート脇の壁にこすりつけていました。あたりは、残骸で散らかりっぱなしです。
 どうしよう、注意するか、しないほうがいいのか、戸惑っていると聞いたことを思い出す。“今ごろの若者は恐ろしい、関わらない方がいい。” でも “もしかしたら、彼は躾けられていないだけかもしれない。このような若者がそのまま大人になってしまうなら、本人も社会も困るな~”などなどの思いが交差する。下車する駅が近づいて来る。その子も降りるらしい。
 気がついて見ると、「ゴミはここに捨てないでね。外のごみ箱に捨てましょうね。」と 言いながら、私は、シート裏に隠すように突っ込んであったゴミを拾い集めていました。すると「そう、そこのゴミも拾いなさい。」という声が肩の上の方から聞こえました。見上げると40代ぐらいの男性の方です。味方を得たようでホッとした気持ちになっていると、「はい、分かりました」と 彼のはっきりとした丁寧な素直な声が聞こえたのです。発車間際の電車を飛び降りました。ドキドキするような幸せな気持ちで、わずかの間に起こったこの出来事の余韻を味わっていました。彼に「あなたは、いい青年だね。」と、せめてもの私の気持ちを微笑で伝えることができなかったことを残念に思いました。
〈東京 60代女性〉
* ふりかえりのヒント*
1.この出来事の初めから終わりまでに、どんな展開、心の動きに変化があったでしょうか。
2.日常生活の中で、似たような出来事に出会ったことがありますか。
3.その出来事からどんなことを学びましたか。
(出来事に聴く 111 2007/4/13)