アルツハイマー型認知症の方からいただいたもの
 地域でいつも連携している看護師さんから、「この方のお家は今までいろいろあって」という前置きを聴いて家庭訪問に出掛けましました。
 この冬一番の寒い日でした。30分も前から家の前で、前掛け姿で私を待っていたのは、50代にアルツハイマー型認知症を発症し、3人の息子さんを育て上げたYさんご自身でした。童女のような笑顔です。私も自然に微笑んでいました。お部屋は、買ったことを忘れ、同じものを買うために何十個もの荷物が積みあがり、ストーブは点けたままで、窓は全開という状態でした。質問に対してのYさんの答えは、どれも現実とは違うのです。Yさんは関係が一番近いお姉さんに当たりちらし、注意すると怒って手がつけられない…ごみの出し方がわからなくなって近所から苦情がくる‥など診断が下るまでのご家族のご苦労、ご本人の苦しみ、診断後の生活の問題などが手に取るようにわかる状況でした。同じ病気を持つ他の家族のことを話すと、身を乗り出して聴き、各々同じ大変さについて自分の思いを話し始められました。時間をかけて入れてくださった紅茶に心のこもったもてなしが伝わってきました。
 2時間後、私は次の家庭訪問へ行かなければならないと言うと、Yさんは「大変だね。本当にいい仕事だから誇らしく思っていいよ」と言ってくださいました。玄関で靴を履いていると、「カチッ、カチッ」魔よけの火打石です。初めての経験でした。Yさんは以前、息子さんたちが登校するとき、毎朝このように送り出していたのです。私が道をよく知らないために大通りまで見送りくださり、満面の笑みでまた「カチッ、カチッ」。手を振ってさよならしました。別れた後、なぜか涙があふれて止まりませんでした。Yさんとの出会い、そして暖かい思いやりは、仕事に追われ感謝されることも少なく、心身ともに堅くなり重くなっている私の心に深く染み通っていくのを感じました。
 この出来事を通して、人はかけがえのない存在として創られ、たとえどんな状態になろうとも、その人の本質的なものは決して失われないものであると実感しました。
36歳女性 保健師
* ふりかえりのヒント*
1.弱い貧しい立場の人、小さくされた人、無邪気な子供たちから、かえって学び、助けられ、力をもらったことがありますか。どんなことでしたか。
2.イエスのどんな言葉が呼応しますか。
3.生活のなかで“逆説的な福音”をどのように生きることができるでしょうか。
(出来事に聴く 130 2008/2/15)