大事なことは何ですか?
 日ごとに寒さが厳しくなってくると、2ヶ月前に訪れた大阪の釜ヶ崎でのことを思い出す。日本で一番大きいと言われる日雇い労働者の町釜ヶ崎(あいりん地区)で2泊3日の「祈りと体験」に参加した。 
 3日目は炊き出しの手伝いだった。公園に向かい長蛇の列に驚いた。常連風の人もいれば、こぎれいな服装の新人風の人もいた。「並んでいる人たちの中にキリストがおられる」とのシスターの一言が脳裏をかすめた。直径80センチぐらいの大きな鍋に肉野菜スープがおいしそうに煮えていた。後で知ったのだがその日は300食が用意されたそうだ。
 私に分り当てられた仕事は、彼らが食べ終わった後の箸を洗うことだった。水の入った大きなバケツの前に座り、戻されてくる箸を洗う。「ありがとう」と言って返す人、深々とお辞儀をして帰る人、無言で二度目の列に並ぶ人。あまりの多さにだんだんと相手の顔は見えなくなり、箸を受け取ることなく直接バケツに入れてもらって洗っていた。
 30分くらい洗うことに専念していた時、ちょうど右肩後方から「あんた、何してんねん!あかんやないか。顔を見て箸を受け取らんと。そうすることでコミュニケーションができて、『アリガトウ』の一言も出てくるんや。」私は心臓が止まるくらいびっくりし、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。振り向くと人が居た。彼も路上生活をしている釜のおっちゃんで炊き出しのお手伝いをしていたのだ。後ろからずっと様子を見ながら、箸を洗うことに夢中になっている私に我慢できなくなって大声をあげたのだろう。「ごめんなさい、気がつきませんでした」と謝った。それからは、箸はどんどんたまっていったが、一人一人に顔を向けて箸を受け取った。
 一人一人の人間より箸を洗うことが大事だった私。考えれば当たり前なことなのに目に見える仕事を優先していた。目の前のこと、目先のことに心を奪われていたのだ。相手はどんな気持ちでいたのだろうか。互いに「お疲れさま」「ありがとう」「気をつけてね」と顔を見ることによって言葉が生まれてくるのだろう。この出来事から気づいたことは忙しい毎日「神の国は、あれこれと忙しく目先のことをすることではなく、あなた方の間にある」、そして大切なのは「その間におられるキリストに気づくこと」だということ。日々の生活の中で意識していたいと思う。
 さまざまな姿、顔、キリストはあの列の中にも、そして私の後ろにもおられた。「あんた、何してんねん」イエスが、今も私に問いかけておられる。「大事なことは何ですか?」と。
* ふりかえりのヒント*
1.日常忙しくして大事なことを忘れたことはありませんか?
2.振り返って気づいたことが最近ありますか?
3.あなたが今、問われていることは何でしょうか。
(出来事に聴く 140 2009/12/25)