こころの散歩

あなたが踊れるなら

あなたが踊れるなら

 患者のなかに骨肉腫をわずらい、命とひきかえに片足をつけ根から切断した男性がいました。その人はまだ24歳で、とてもとげとげしい不機嫌な人でした。その若さでそんな体になるなんて理不尽だという気持ちでいっぱいだったのでしょう。強い不公平感と、健康な人への深い憎しみを抱いていました。
 それから何年か経つうちに、その人はとても変わりました。自分の殻に閉じこもるのをやめたのです。病院内の、自分と同じように体の一部を失った患者さんのところを訪ねていくようになり、そこでどんないいことがあったかを聞かせてくれるようになりました。
 あるとき同年代の若い女性を訪問しました。その日はとても暑く、彼はジョギングパンツから義足をむき出しにしたまま病室へ入って行きました。しかしその女性は、両方の乳房を切除したことでとても落ちこんでおり、彼のほうを見ようともしません。何も目に入らないというようすです。そのときたまたま部屋のラジオから音楽が流れていました。きっと少しでも元気が出るようにと、看護婦がつけていったのでしょう。どうにかして彼女の気をひかなくてはと思った彼は、なんと義足を取り外すと、曲に合わせて指を鳴らしながら、一本脚で踊りだしたのです。これには彼女もびっくり。目をまんまるにしてながめていたかと思うと、ふいにゲラゲラ笑いだし、こう言いました。「そうよね、あなたが踊れるなら、私は歌えるわね!」

  
画: 松村 美智子
  

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