こころの散歩

森の教会

森の教会

 昔々、あるところに森があった。昼には小鳥がさえずり、夜には虫が鳴きかわした。樹木が生い茂り、草花は咲き乱れ、ありとあらゆる種類の動物たちが遊び戯れていた。
 森に足を踏み入れる人は例外なく、孤独、独居を味わうのだった。この孤独こそが、自然界の静けさと美しさのなかの神の住まいだった。
 やがてそうしたことを忘れ去り、過ちを犯す時代がきた。一千フィートの高層建築が可能となり、その種の建物がつぎつぎと建てられていった。川、森、山、丘は瞬く間に破壊されていった。森からきりだされた材木と石材で、各教団の礼拝堂が建立された。神社、仏閣、寺院、教会の塔や尖塔が、天に向かってそびえ立った。天空には鐘の音、祈り、賛美歌、説教がどよめいた。
 こうして神はその住まいから追い払われたのであった。

 神はわれわれの目の前にさまざまな物を置く。それらにわれわれの目がさえぎられることが往々にして起こる。

 聴きなさい。小鳥のさえずりに耳を傾けなさい。木々を揺する風、潮のとどろきを聴きなさい。見つめなさい、一本の木、一片の花を見つめなさい。いま初めてこれを見るのだという心意気で。

  
画: 塩谷 真実
  

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