2007年2月  4.精神障害
 現在、世界の五分の一の人が精神障害に苦しんでおり、真に実効性のある社会的な取り組みとしての医療活動を緊急に必要としています。
 世界各地で起こっている武力紛争の長期化や、相次ぐ大きな自然災害、テロの広まりが、恐るべき数の死者を出している上に、相当数の生存者たちの心に精神的外傷(トラウマ)を残し、その回復が時には難しいことにも注意しなければなりません。
 高度に経済が発展した国々においても、道徳的価値観の危機が与える悪い影響が、新たな形の精神障害の原因となっていることが、専門家によって指摘されています。道徳的価値観の危機は、人々の孤立感を深めています。また、家族制度をはじめとする、伝統的な形での社会的きずなを弱め、場合によってはそれを破壊してしまいます。そのため、病者、とくに精神障害者は、しばしば家族や共同体の重荷とされ、疎外されているのです。日本においても、このことは大きな問題になっています。
 すべての精神障害者が必要な介護と治療を受けることができるように働きかけている人々は多いですが、世界の多くの地域では、精神障害者に対する援助が不足していたり、不十分であったり、切り詰められています。社会は、精神障害者と彼らの限界を、つねに受け入れているわけではありません。そのため、必要な人的・経済的資源を確保することもままならないのです。
 「適切な治療」と、「障害に対する新しい感性」とを、よりよいしかたで統合する必要があります。それは、この分野で働く人々が、精神障害者とその家族を、いっそう効果的なしかたで助けることができるようにするためです。精神障害者の家族は、自分たちの力だけでは、適切なしかたで身内の世話をすることができないからです。今年の世界病者の日は、わたしたちが、助けを必要とする精神障害者を抱えた家族への連帯を示すための、ふさわしい機会となります。
 心に病をもつ人を受け入れ、その苦しみを分かち合う精神がはぐくまれ、広がること、また、その結果として、十分な資源を具体的に用いることを含んだ、適切な法律や保健事業計画が打ち出されることを望みます。社会の中のこうした細心の注意を要する分野で働く人材を養成し、研修することが、これまでにもまして緊急に求められています。すべてのキリスト者は、それぞれ固有の任務と責任に応じて、わたしたちのこのような兄弟姉妹の尊厳が認められ、尊重され、促進されるように働くことを求められています。
(第14回「世界病者の日」におけるベネディクト16世のメッセージから抜粋)