2007年9月  1.救いの歴史と旅
 今日、世界的な規模で起こっている移住・移動という現象は、私たちに「救いの歴史」を思い起こさせます。イスラエルは、「あなたは生まれ故郷を離れ、父の家を離れて、わたしが示す地に行きなさい(創世記12・1)」という神のことばに従って旅立ったアブラハムを起源としています。モーセに率いられ、40年間砂漠を旅する中で、イスラエルは「神の民」と呼ばれるようになります。イスラエルの民にとって、約束の地への旅、あるいはエジプトからの避難という苦しい道程は、民の救いという視点において、父なる神に対する信仰を育てる原体験となりました。

 また、イエスご自身、救い主として、故郷を離れた旅先で、家も部屋もない貧しさの中で生まれました。さらに、ヘロデ王の野心とねたみのため、遠くエジプトに難を逃れなければなりませんでした。救い主は、誕生をめぐる苦しい旅の道程で、神の民の原体験を自らの生涯の初めに引き受けたのです。

 イスラエルの民は、長い旅の歴史の中で多くの苦しみを体験します。彼らは、苦しみの原因を自らの罪や弱さの中に見つめました。そして、彼らのそうした罪深さや弱さにもかかわらず、けっして民を見捨てることなく、救いの手を差し伸べ導いてくださる神に出会うのです。人の子としてこの世に遣わされたイエスは、地上の生活がもたらすいっさいの苦しみを引き受け、その中に、救いへの道を備えてくださいました。

 現代の移住・移動者たちは、私たち一人ひとりも永遠の救いを求めながら、この世を旅する旅人であることを思い起こさせてくれます。この旅の途中、さまざまな弱さや限界を経験しながら、そこに神のゆるしと導きを見出し、希望を新たにしていくのです。彼らが経験する毎日の重荷を分かち合いながら、共に救いの旅を歩んでいきたいものです。