2007年11月  4.自殺
 11月初め、白昼に東京池袋のデパートの屋上から飛び降り自殺を図った女性が下を通行中の男性に直撃し、飛び降りた本人は亡くなり、直撃を受けた通行人の男性も意識不明の重態になり4日後に亡くなったという出来事が報じられていましたが、その女性がなぜ自殺をしなければならなかったのかということには触れていませんでした。
 厚生労働省統計資料によると、自殺者数は1998年に急増し、それから2006年まで9年間連続して3万人前後で推移しています。この人数は2005年の交通事故死亡者6,625人の5倍という大変な人数なのです。性別で見ると、圧倒的に男性が増加しているのです。年齢別で見ると、50歳代が顕著な増加を示しています。
 1990年以降はちょうどバブル経済が崩壊し、企業がリストラを実施し失業者が増えた時期です。と同時に、職場に残った人々の過労死(含む過労自殺)が問題になってきた時期でもありました。厚生労働省の発表によると自殺の労災申請が1999年に93件となりましたが、それまで1年に1件の申請があるかないかという時代が長く続いたことと併せて見ると激増と言えるのです。50歳代の男性がこれらの経済的問題の波に飲み込まれたと見ることができます。
 厚生労働省が1901年からの国別自殺死亡率(人口10万人当たり)を発表していますが、2000年の1位はロシアで39.4、2位はハンガリーで32、そして、3位は日本で24.1となっています。日本は自殺者が多く出る社会になってしまっているという現実があるのです。そして、厚生労働省の人口動態調査の2005年の年齢層別死因の順位を見ると、男性の20〜44歳の5歳刻みの各年齢層において自殺は第1位で、15〜19歳、45〜49歳では第2位なのです。女性でも、15〜34歳の各年齢層において自殺第1位が自殺で、35〜49歳の各年齢層においても第2位なのです。
 自殺はさまざまな要素が複雑に絡み合って発生すると考えられていますが、最近の研究では、多くの場合に統合失調症やうつ病などの心の病が関係していることが分かってきました。このような病は、ガンと同じように早期に発見しないと、死に追いやられてしまうことが多いのです。心の病が偏見の目で見られたり、認識が差別的であったりする日本の社会では、本人も家族も病院に行くことを躊躇(ちゅうちょ)してしまう傾向があるので、病の発見が遅れ、自殺をくい止められない現状があるのでしょう。
 統計に表れた自殺者数をみていると、心の病が起こりやすい社会状況の改善が急務であることを感じます。人間の尊厳が無視されたり、長時間の労働で心身が疲れた状態が続いたりなどの過剰なストレスが、ある特定の人びと、特に経済的に苦しい状況に追い込まれた人々の上にのしかかっています。そして、このようなストレスが心の病を引き起こす大きな要因でもあるのです。その意味で、私たち一人ひとりが支えているこの日本の社会の構造にも大きな問題があるように思えてくるのです。