2008年6月  1.イエスとザアカイ
 ルカ福音書19章1〜10節は、イエスと徴税人ザアカイの出会いの物語ですが、それは、喜びに満ちた心の出会いが、どれほど大きな愛の力となっていくかを教えてくれます。

 ザアカイは「徴税人の頭で、金持ちであった」と言われています。徴税人は、同胞であるユダヤ人から厳しく税を取り立て、しばしば、不正に私腹を肥やしていたこともあったようです。その「頭」であったザアカイは、経済的には何一つ不自由なく、外見的には満ち足りた、羽振りのいい生活をしていたことでしょう。
 けれどもその内面は、孤独で、心の安らぐことがない緊張の連続だったのではないでしょうか。彼らは、ユダヤ人にとっては裏切り者であり、汚れた罪びとです。絶えず世間の冷たい目にさらされ、それでも負けまいとして強がらなければならない、そんな辛い努力の毎日であったかもしれません。温かい愛と優しさへの渇き、実は、それこそがザアカイの心の本当の望みだったでしょう。

 そんなザアカイにイエスは声をかけます。イエスは、ザアカイの心の深みにある憧れに応え、暖かい眼差しを注いでいきました。冷たい目にさらされ、閉ざされていたザアカイの心は大きくふくらんでいきます。「今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい」。ザアカイにとっては、思いもよらないイエスの申し出だったと思います。それは、罪びとの苦労や重荷を担おうとされるイエスの憐みの心との出会いであり、どんな人でも滅びることを望まれない父なる神との愛の出会いでした。

 ザアカイは立ち上がって主に言います。「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人に施します」。ここには、愛の体験からくる心の躍動が見られます。自分も愛されていた、大切にされていたという喜びからほとばしる愛の力の発露があります。私たち一人ひとりは、神にとってかけがえのない、大切な存在です。私たちに注がれるキリストの眼差しを見つめ、その招きの言葉に耳を傾けましょう。キリストとの出会いの中に、大きな愛の力が育っていくはずです。