2010年3月  1.あなたの隣の人
 「働いて」「食べて」「生きる」、これは人間の根源的な生の営みです。長い歴史において人は近隣にある動植物を食べ、自分のいのちを育んできました。しかし、人間の欲望が増大するに伴い、「いのちの循環」が綻(ほころ)びてきています。人間と自然は同じ運命を持っているのです。「経済」とは、地球生態系に共依存しつつ営む「人の暮らし」なのです。「地球上で生をいとなむ人間として、私たちは互いに、より大きな生命の共同体に、そして未来世代に対して、責任を負うことを明らかにすることが必要不可欠です。」(国連地球憲章前文) 私たちは今いのちの源である地球からこのように呼びかけられています。
 「94%の世界の所得は世界の40%の人々のところに集まり、残りの60%の人々がわずか世界所得の6%で暮らしているのです。」(2006年ノーベル平和賞受賞記念講演・ムハマド・ユヌス氏)このような所得格差を生み出す現代社会――金融、流通、産業、公共、そして行政システムなど――は、私たちからは遠い存在である自己規制的メカニズムによって機能しています。非人格的であり、道徳とは無関係であり、人は効率化・合理化の名のもとに、自らの生活様式や行動パターンまで画一化されています。「なぜ働くのか」「なぜ食べるのか」「なぜ生きるのか」、巨大システムの「部分」になった人は「意味」を見いだせずにさまよっています。また、ストレスによって低体温化しつつある現代人は心さえも冷え込み、隣人に無関心になっていきます。利益優先の「いのち」を重んじない経済活動は「最も貧しい人々」を生み出していきます。
 キリスト者である映画監督マイケル・ムーアの最新作「キャピタリズム〜マネーは踊る〜」は次の歌で締めくくられています。「イエスは金持ちに言った。『貧しい者たちに施しなさい』だから奴らはイエスを葬り去った。」イエスの生き方こそ、「正義と平等の原理」に貫かれています。教皇様の意向の実現に向けて、イエスとの交わりを深めながら「あなたの隣の人」に手を差し伸べていきましょう。