2010年7月  2.正義・連帯・平和
 2010年4月9日に作家の井上ひさしさんが帰天されました。面白い作品と飄々(ひょうひょう)とした人柄が偲(しの)ばれます。代表作とも言える『吉里吉里人』が単行本として刊行されたのは1981年。東北の人口約4千人の村が日本政府からの悪政に耐えかねて「吉里吉里国」として独立。「吉里吉里語」を話し、独自の通貨を持ち、高度の医療技術を盾に平和的独立国家を目指す!という奇想天外なSF小説です。小説の中で「吉里吉里人」ののんびりとした「吉里吉里語」を通して、痛烈な日本政府批判が展開されるというミスマッチに大笑いしながらも、深く問題を考えさせられる実験的な作品でした。単行本が刊行されてから30年経ちますが、作品中で指摘されている問題点は何一つ古びておらず、この30年は何だったのだろうと驚かされる人も多いのではないでしょうか。(むしろ沖縄問題で、沖縄独立がまじめに議論される今、現実が小説に近づいている!)
 そんな作品を残された井上ひさしさんの座右の銘は次のような言葉だったそうです。
「むずかしいことをやさしく
 やさしいことをふかく
 ふかいことをゆかいに
 ゆかいなことをまじめに書くこと」
 この言葉を胸に井上さんの作品を読みなおすと、「なるほど」と納得します。井上さんの作品は単に冷たいイデオロギーが書かれている本ではありません。政治問題も「やさしく、ふかく、ゆかいに、まじめに」書かれてあるので、ある種の温かみをもった文学作品に仕上がっています。やはり、井上さんはイデオロギーよりも、人間を愛された方ではないかと思います。どんなに問題があっても、不平等があっても、それでも人間を愛するという井上さんの基本的な心が、作品に深みを与えているように感じます。
 さて、我々の「きょうをささげる」の意向を読みなおして少し反省しています。「正義!連帯!平和!」という言葉が何回も並んでいます。「正義」ってなんですか?「連帯」ってどうすることですか?「平和」ってどうすれば得ることができますか?これらの意向に沿って「祈る」とは、ただこれらの言葉を唱えることではないと思います。これらの言葉、意向を「やさしく、ふかく、ゆかいに、まじめに」、私たちの現実の言葉にしていくことが真の祈りなのではないでしょうか。