2010年9月  2.従来の市場サイクルからの脱却
 以前、住宅会社で営業をしていたとき、築10年以内の住宅の建て替えを2件担当しました。ぱっと見た時には、まだ新しいし、最終的には建築の時期が先延ばしになるだろうと思いました。とっさに「まだ、もったいないですね」と言いかけてやめました。「そうですか……それならやめます」と言われてしまったら、商談の機会を逃してしまうからです。
 ところが、事情をきいてみると、間もなく家族構成がガラッと変わることが決まっているそうで、この商談は進んでいきました。幸い、私のケースは、無理に建て替えるように、けしかけたものではありませんでしたが、狭い市場の中で生き残るためにはやむをえず、意図的に需要をあおることが日常的に行われているのです。
 利益を上げるために、搾取する。需要をかきたてる。新しい需要は資源を使う。環境が破壊される。このサイクルをなかなか崩せません。先週提示された「真の発展と愛」が実現しにくいのも、このサイクルががっしりできあがっていて、新しいサイクルがなかなか見いだせないからだと思います。従来の市場サイクルでは、途上国は金もうけのための餌食となってしまいます。わずかの支配層と資本家が結託すれば、森林伐採、資源の乱獲などで途上国を犠牲にして利益を上げる図式がまかり通ってしまいます。
 さらに、新しい需要をかきたてようと、その商品に真実とは思えない価値を付加してそのことをアピールし、消費者心理をあおります。そうして生みだされた需要は、さらなる搾取と環境破壊を加速します。このような、負の流れを断つにはどうしたらいいのでしょうか? 
 いくつかのポイントが考えられます。1つは、もしそのような仕事に関わっていても、逸脱しないことです。「だましてでも買わせる」という言葉がありますが、キリスト教的良心を最後まで貫くことが大事です。厳しい市場環境の中で、このことを実践することは並大抵のことではありませんが、どこかに歯止めを設けておくことが、ズルズルいかないためにも必要でしょう。2点目は、消費者の立場からですが、本当に必要なもの以外は買わないことが大切です。広告などにつられて何となく買わないことが、多消費型の社会に抵抗していることになります。3点目は、フェア・トレードなど生産者の生活を考えた商品を購入するよう心がけることです。どれも、すぐには思うように実践できないことかもしれませんが、長いヴィジョンで追い求めていきたいものです。