2012年5月  1.中国における人間の尊厳を思う
 「いのち」という表現は人間の歴史の中で、かけがえのない神秘の深みを伝えてきました。心拍や脳幹機能停止で身体的死という生命(いのち)の終わりもあります。しかし、「いのち」は交わり・関係を表現していることばでもあります。そして21世紀は「死の文明」と言われた人類の状況から「いのち・愛の文明」の世紀を目指しています。ところが現在の危機は、国家の枠組みが人間の基本的生活条件を断ち切る、いわゆる「国境分離主義」にあります。
 やがて13億を超える中国は、人口においても経済・軍事力においても最大・最強の国家になろうとしています。もちろん国家内部の状況は、今後どのように展開するのか、世界史に大きな影響をもたらすでしょう。このような時に、国家的対立・衝突がどれほどの不安と非進歩、人間の尊厳の破壊をもたらすでしょうか。「まだ悟らないのか!人類よ!」と叫ばざるを得ません。市民・民衆レベルで、人間の尊厳を共有すること、特に思想・信条の自由が尊重される人間的土台を獲得することは、国連や政府間交渉もより優先して進めるべきでしょう。日本人が中国へ行って発言したり行動したりすることはそう簡単にできません。ですから、今、身近でできることが無いのか、考えなければなりません。
 一昨年九州で、中国人研修生が数人、騙されて劣悪な労働条件で非人間的な処遇のもとで働かされていたところ、そこから脱走して、市民運動の中で保護されました。日本人として恥ずかしいことでした。日中関係の、歴史的負の記憶をえぐり起こすような影響を与えました。「やはり日本人は酷い人間たちだ!」と思われて、信頼関係は市民間民衆間で急直下の転落です。
 ところが行政・司法・外交も入っての長引いた交渉の間、低所得で家族にハンディキャップのある子どもを持つ面倒見のよい夫婦が、それら数人の中国の女性を引き受けて、寝食の面倒を見ました。途中で倒れそうになる苦労でした。そして、徐々に周囲の理解も得て、市民・労働者仲間の助けで、謝罪・未払い賃金獲得・帰国した後の安全保障などなどを得て解決しました。
 彼女たちが中国に帰れるようになった時、中国の家族から、世話になった日本人夫婦を中国に連れて来るようにと言ってきました。介護施設での夜勤が明けたお母さんと、脳卒中の後遺症でリハビリ中のお父さんは、帰国する中国人女性たちと船に乗りました。中国では感謝の大歓迎を受けたそうです。絶ち切られた信頼の絆は回復され、これを契機にいっそう強くなりました。
 今、日本国内に滞在する中国の人びとと、相互の良心を尊重し、人間の尊厳を共有することが、求められています。そしてこの小さな種は、大きな実りとなると思います。
 5月の日本の教会の意向「中国の教会との連帯」を心に留めながら、日々を過ごしてまいりましょう。