2012年8月  4.世界を癒していく
 この8月の初めに、カンボジアに行く機会があり、広島に原爆が投下された8月6日はキリング・フィールドというポル・ポト派によって大量虐殺が行われた場所で、平和のために祈りました。
 その場所を歩きながら、オーディオ機器で生存者の証言を聞くことができます。収容所を何とか逃れ、アメリカに渡り、国連職員としてカンボジアに戻り、今はカンボジア文書センターの館長となっているユック・チャンさんの証言がひときわ胸を打ち、忘れられません。
 チャンさんは少年のときに収容所に入れられ、見ず知らずの囚人のおじさんが「この子は何もしていないのだから」と訴え、身代わりとなって処刑されたおかげで、生き延びることができました。虐殺によって、姉や兄を失いました。チャンさんはアメリカに渡ってから長い間、ポル・ポト派に復讐することばかりを考えていました。そうすることが何よりも、母親を慰めることになると思っていたのです。しかし、長い年月が経ち、カンボジアに戻ってきたとき、母親の願いは全く別のものであることを知ったのです。それは、ただ息子に幸せであってほしいという願いでした。そして彼女はすでに、自分や家族を痛みつけた人々をゆるしていたのです。
 今、チャンさんはポル・ポト派のしてしまったことが二度と繰り返されないようにと願いながら、散らばり隠された歴史的資料を集め、人々に平和教育を行っています。そのような作業を「こわれたガラスの破片を集めること」とたとえています。「私たちは、あの悲しい出来事によって砕け散ったガラスのように、バラバラになってしまったのです。今、カンボジアに戻ってきた私は、食べ物がなくて困っている子どもたちの中に私の姉を見ます。子供を失ってしまった女性の中に自分の母親を見ます。そうやって、苦しんでいる人たちは私の家族となっていきました。私はそうやって、バラバラになってしまったガラスを一片一片集め、壊れた心を癒しているのです。」
 チャンさんの願いは、カンボジアの痛みをそのように癒していくことです。憎しみではなく、共感によって、社会の痛みを癒していくのです。そのようなチャンさんの心に学びながら、私たちも社会の癒し手となっていくことができるように、心から祈りたいと思います。