2015年9月  4.高齢者の虐待防止と権利擁護
 高齢者虐待の実態は、表面化しにくい特徴があります。この夏、高齢者施設での転落死があいついで発覚し、行政も調査を始めましたが、高齢者は自分が受けた虐待について、それが虐待にあたるかどうか判断できなかったり、我慢をしてしまったり、また虐待されたことを言葉にすることができないなどの理由で、その実態が明るみに出ることが少ないのです。
 そのことに加えて、家庭内で起きていることが実に多いのです。高齢者虐待は、ドメスティック・バイオレンス(DV)でもあるのです。その場合、虐待している家族も虐待されている高齢者も、長い年月のうちに次第にそのような状態になったこともあって、それが虐待にあたるとは思ってもいない場合が非常に多いのです。
 虐待とは、幼児や配偶者への虐待、学校生活、職業生活でのいじめと同じように、人間としての尊厳が冒されている状態と言うことができるでしょう。自分の人生を自分で決め、周囲からその意思を尊重されることは、すべての人に与えられた人権の一つです。その人の意思を認めずに、暴力的な行為(身体的虐待)ばかりか、暴言や無視、いやがらせ(心理的虐待)、必要な介護サービスの利用をさせない、世話をしないなどの行為(介護・世話の放棄・放任)や、勝手に高齢者の資産を使ってしまうなどの行為(経済的虐待)が起こっています。また、中には、性的ないやがらせなど(性的虐待)もあります。
 身体拘束も、家族の側は危険だからそうせざるを得ないという思いで、いじめたり虐待しているといった意識がまったくないまま、徐々にエスカレートしていく場合が多いのです。ベルトやひも等をつなげて行動を制限したり、つなぎのような介護衣や指の分かれていない手袋(ミトン型)を使用したり、立ち上がりを妨げるように車椅子のベルトは締めたままにする、向精神薬などの過剰服用、ひいては鍵付きの居室への隔離などは、明らかに身体拘束による虐待です。
 身近にいる高齢者が、このような人権侵害に遭遇していないか、注意を向けてみましょう。そのような状況に気づいたら、市区町村の高齢者虐待対応の相談窓口に連絡してみましょう。そして何よりも、高齢者の権利が擁護され、生命のある限り人間らしい生活を送ることができるように、心を合わせて祈ってまいりましょう。