2016年4月  4.農地改革と大土地所有
 小規模農家の人たちが、労働に報いる正当な報酬を得ることができるようにするためには、土地所有制度の改革がとても重要となります。
 フィリピンの農業経済の最大の課題は、大土地所有だと言われています。フィリピンのビサヤ地方のネグロス島では今も、人口の3%(スペイン系の地主など)が島の面積の7割近くを所有するという状態が続いています。スペインが植民地として支配していた時代に、ヨーロッパでの砂糖の需要に対応するために、島の農地をすべてサトウキビ畑にして、大規模なプランテーションを行ったのです。その状態が約200年続いたのですが、1980年代に世界的に砂糖の価格が暴落し、サトウキビ農園は経済的な大打撃を受けることになりました。そしてそのしわ寄せは、最も弱い立場にある農業労働従事者に及びました。サトウキビの栽培が中止になって、賃金が得られず、深刻な飢餓がネグロス島で起きたのです。この飢餓を救うべく、国際的な支援が行われ、日本もネグロスキャンペーン委員会を中心として、援助の手を差しのべました。
 しかし、農地改革によって、小規模でも自作の農家の育成へと方向を変えなければ、本質的な解決にはなりません。地主たちの一部は、私兵を雇って暴力的に農地改革に抵抗したりしました。1990年代の半ば以降、カトリック教会や、他の慈善団体は、土地闘争を支援し、自立した小規模な農家の育成を手伝い、さらには安全性と生産性が高く、しかも付加価値も高い有機農法を普及させることに取り組みました。まだ目標の半分ほどしか達成されていませんが、ネグロス島の自立支援の方式は、他の地域でのモデルとなっています。特に、スペインが統治していた国々、例えば南米の国々などは、フィリピンと同じような大土地所有が継続しているからです。
 このような背景を知れば、教皇の意向のねらいがどこにあるかが理解されるでしょう。自由市場での競争ではなかなか労働に見合った報酬が得られませんが、さまざまな方策で小規模農家の自立を支援できるようにと祈ってまいりましょう。
 また、東日本大震災と原発事故で被害を受けた被災地の農家の方々にも思いを致し、その自立支援のためにも祈りましょう。