2016年5月  2.数珠(じゅず)状の祈りの用具
 5月はカトリック教会で聖母月とされています。サツキが咲きほこる中、教会のマリア像を囲んでお祝いの催しが行われる光景は、すがすがしい新緑に美しく溶け込みます。「アヴェ・マリアの祈り」が唱えられ、私たちの信仰の模範である聖母マリアに、取り次ぎの願いがささげられます。
 カトリック教会には、ロザリオの祈りという伝統があります。「アヴェ・マリアの祈り」を繰り返し唱えながら、その節目節目に「主の祈り」「栄唱」などを取り混ぜて、その祈りに込められた願い(祈りの意向)が叶えられるように祈ります。そして、唱えた祈りの回数を確認するためでしょうか、珠が糸などで連結した祈りの用具としての「ロザリオ」が用いられます。教皇は5月の意向で、「福音宣教」のため、そして「平和」のためにロザリオの祈りが家庭や共同体、グループでささげられるように奨めています。
 ところで、カトリックのロザリオの起源は東方正教会のコンボスキニオンだとする説があります。同じように玉を連結した祈りの用具で、チョトキ、コンボスキニ、ヴェルヴィツァとも呼ばれています。4世紀頃のエジプトの修道士でのちに聖人となった、聖大パホミイによって考案されたとされています。100個の玉が基本形ですが、他に300個、250個、50個、33個、12個のものなどがあり、祈りの数を数えるためのものではなく、規則的にリズミカルに祈りを繰り返すのを助けるために用いられました。
 キリスト教以外の宗教にもこのような数珠状に連結された祈りの用具があります。私たち日本人には、仏教の数珠が最もなじみが深いのですが、イスラム教などでも用いられていることをご存じでしょうか。イスラム教ではミスバハと呼ばれ、33個のものと99個のものがあり、「Allahuakbar」(アラーは偉大なり)と唱える度に数珠を一つずつ動かします。それぞれの玉には文字が書かれていて、玉部分に『アッラー、ムハンマド』、持ち手部分に『アッラー、ムハンマド、アリー、ファーティマ、ハサン、ホセイン』とアラビア文字にて刻まれています。
 これらのロザリオ、コンボスキニオン、数珠、ミスバハの起源をさかのぼると、ヒンドゥー教がまだバラモン教と呼ばれていた時代にその源流がありました。ジャパ・マーラ(japa-mala)と言い、古代インドのバラモン(神官)が持っていた法具で、ジャパとは「念じる」「つぶやく」の意味、マーラは輪を意味します。ジャパはバラモン教での瞑想の一種で、マントラ(真言)という神聖なる言葉を繰り返し唱え続けるものだそうで、現在でもヨガをしている人などは、瞑想に使用しているようです。
 このように、数珠状の祈りの用具の歴史と伝統を調べてみると、自らの心を大いなるものの心に重ねて祈る、宗教の違いを超えた「ヒト」の営みが、いかに共通点の多いことかと、驚かされます。いずれの宗教に帰属していようとも、他の宗教の人々と心を合わせて、伝統的な祈りの用具を使って深い祈りに導かれ、人類の平和のために祈りをささげてまいりたいと願っています。