2016年10月  4.民主主義の前提条件
 人々がそれぞれの利害を調整しながら平和的共存の道を歩むために、私たちは民主主義という合意形成のルールを構築し、正義と公平が保たれるように政治の仕組みの中に生かして統治の原則としました。この道に到達するまでに、人類は何百万年もの長い年月を費やし、ついに国家間の利害の調整も、このルールに基づいて行うまでに至りました。この民主主義の原則の中で、私たちは立法府の議員の選出と、行政府の責任者の選出を行います。選挙制度は、一票の重さを等しくすることには限界がありますが、それでも既存の制度に基づいて議員や首長が選出されるのです。
 この民主主義の前提として、まず第一に確保されなければならないのは、言論の自由、報道の自由ですが、その自由の背景には真実が存在しなければなりません。発言の根拠となる具体的な事実もなく、創造や憶測で公に発言することは、一人ひとりの判断に誤った情報を与えるばかりか、時には名誉や人権を傷つけることにもなりかねません。ましてや公共のメディアを通して意見や出来事が報道される場合には、真実を伝えることへの絶対的忠実性が求められます。意図的に事実と異なる報道を行ったとなれば、たとえそれが自分自身の利害に直結したものでないとしても、糾弾されるべき重大な過失なのです。
 アメリカの大統領選挙や、中国とフィリピンとの間の東シナ海をめぐる領有権の交渉などの報道に触れて、発言する人もまた報道する人も、真実の重みを軽んじている印象を強くします。さらには、国際司法裁判所といった民主主義にのっとった国際間の紛争解決のための期間の決定を無視したり、選挙において不正が行われているといった理由で選挙結果を受け入れないとする主張など、真実の積み重ねを否定する言動に、心が震えるばかりです。
 今月の教皇の意向のように、ジャーナリストが真実を明らかにしながら、分かりやすくそれを人々に伝える環境が守られますように、ともに祈りをささげて過ごしてまいりましょう。