2019年4月  1.国境なき医師団
 「国境なき医師たちは、切迫した危機にある人たち、天災にせよ人災にせよ災害の犠牲者たち、交戦状態の犠牲者たちに対して、人種的、宗教的、思想的、政治的な、いかなる差別もせず、支援をもたらす。」これは、国境なき医師団の設立趣意書にある一文です。国境なき医師たちは、たとえそこが紛争のただ中にある戦地であっても、細心の注意を払いながら現場に赴き、人命の救助にあたっています。
 この国際団体は、1971年にフランスで誕生した非営利の民間の人道援助団体で、シリア、パレスチナなどの紛争地域のほかに、感染症が蔓延する地域、自然災害の被災地など世界約70カ国に、医師や看護師をはじめとする医療スタッフを、年間約3万5千人派遣しています。活動資金は民間からの寄付でまかなわれていて、独立・中立・公平の原則に基づく人道援助活動が評価されて、1999年にノーベル平和賞を受賞しました。
 ところで、教皇フランシスコは、今月の意向に「戦地の医師や医療従事者」を取り上げて「戦争や紛争のただなかで、人々の生命を救うため死の危険にさらされている医師や医療従事者のために祈りましょう」と呼びかけています。私たちがまず必要なことは、紛争や戦争に至ることがないように、私たちの中にある弱さを互いに受け入れて、暴力を行使しないで利害の対立を調整する知恵でしょう。しかしながら、権力によってさまざまな権利が侵害されると、人は衝動的に暴力を行使してでも自己の存在を認めてもらえるまで戦ってしまう性向を持っています。相手を許すことができなくなり、その命までも奪い取ってしまう残虐な行為さえも行ってしまうのです。
 シリア内戦の死者の数は36万人を超えました。その約3分の1が民間人です。正義の名のもとに、かけがえのない生命が軽んじられています。人が人を殺し続けている現地で、人命を救うために人が働いているという矛盾が現実に日々起こっているのです。
 一日も早く紛争や戦争がなくなりますように、そして、戦地の医療関係者の生命が守られますように祈りましょう。そして、国境なき医師団のような人道援助団体を、私たち一人ひとりが支えて参りましょう。