2019年9月  1.マイクロプラスチック
 今月の教皇の意向は「海洋の保全」で「政治家、科学者、経済学者が協力して、世界の海洋の保全のために働くことができますように」祈ることを進めています。
 現在海洋の保全で最も深刻な課題は言うまでもなくプラスチックによる汚染です。この5年ほどの間に、微少化したプラスチックが、海洋生物の体内に取り込まれることで、生態系全体が危機に瀕(ひん)していることが明らかになって、「マイクロプラスチック」という呼び方でその対策と解決へ向けての取り組みが世界の共通の課題として取り上げられるようになりました。
 プラスチックによる海洋汚染は、その実態が未だ解明されていません。その主たる原因は、海流や潮流によってプラスチックが海岸から深海にまで運ばれて堆積しているので、調査の手が届いていないからです。すでに手遅れになってしまっていると嘆いている科学者もたくさんいます。プラスチックは、形状が小さくなっても、科学的・物質的な本質は変化しません。燃焼(酸素と結合)すれば、化学的性質は変わりますが、窓際に置いたプラスチックの鉢が太陽の紫外線によってぼろぼろと表面が風化してきて、細かい粒子に分解されても、プラスチックの本質は変わらないのです。ある程度のかたちが保たれていれば、例えば海岸に打ち寄せられた洗剤のポリ容器のようなものであれば、海岸を美化するボランティアの方々の手で回収することもできますが、砂粒ほどに微少化してしまうと、回収の方法がないのです。
 海の生き物に必要な栄養は、まず、海の表層にいる植物プランクトンが、太陽の光を受けて光合成で作り出します。それを小さな動物プランクトンがえさにして、さらに魚などが、その動物プランクトンを食べます。この動物プランクトンが、植物プランクトンと間違えてマイクロプラスチックを食べてしまっていることが、最近の研究でわかりました。この動物プランクトンを魚が食べるために、マイクロプラスチック汚染が広がっていく可能性があります。また、動物プランクトンが栄養のないマイクロプラスチックを食べて満腹になれば、発育不足になって生態系のバランスがくずれるかもしれません。しかも、プラスチックにかぎらず、物体の表面にはさまざまな物質が付着しやすいので、マイクロプラスチックが生き物の体内に入れば、それと同時に、表面についた有害な物質が取り込まれる可能性もあります。プラスチックそのものに有害な物質が添加されていることもあります。実際に、魚や貝、水鳥などの体内から、プラスチックや、そこから溶け出したとみられる有害物質が見つかっています。
 プラスチックは徹底した分別回収によって、海洋はもとより深海に散乱しないようにするほかに手立てはありません。今週は、このマイクロプラスチック問題に注意を向けながら、ゴミを分別収集することの大切さについて思いをいたし、また生活のうえで徹底して分別を実践して参りましょう。