2019年11月  4.中東の民族
 最近、トルコ軍がシリア都の国境を越えて、クルド人を攻撃したことが報道されています。教皇フランシスコは、今月の意向に「近東での対話と和解」(註、教皇の意向ではNear Eastと記されていて「近東」の語を当てはめましたが、中東(Middle East)とほぼ同じ地域を指す言葉です)を掲げて、全世界でともに祈るように促し、また、ビデオメッセージでも「対話、出会い、和解の精神が、中東地域に湧きあがるように祈りましょう」と呼びかけています。その最中にこのようなニュースが世界を駆け巡っていることに、とても心が痛みます。
 中東は宗教の坩堝(るつぼ)であるばかりか、民族の坩堝でもあるのです。トルコ人はアゼルバイジャン人と同じテュルク諸語系に属し、一方、クルド人はペルシア人やスキタイ人と同じインド・ヨーロッパ語族系のイラン語派系に属しています。歴史の流れの中で、この地域ではさまざまな民族移動が起きて、たいへん複雑な民族分布をなしており、言語のルーツの違いがその足跡として残っていることが特徴となっています。
 フルリ・ウラルトゥ語族系のウラルトゥやフルリ人、インド・ヨーロッパ語族系ではインド語派系のミタンニ人とロマ(ジプシー)、アナトリア語派系のヒッタイト人とリディア人とリュキア人、イラン語派系のスキタイ人とキンメリア人とペルシア人とバルーチ人やロル人、バフティヤーリー人、そして紛争の最中にあるクルド人やザザ人、アルメニア語派系のアルメニア人、ギリシャ語派系の ギリシャ人とポントス人、イタリック語派系のローマ人やジェベリエ族やフリュギア人、カフカス諸語系の チェルケス人(アディゲ人、カバルダ人)とグルジア人とラズ人、テュルク諸語系のトルコ人(テュルク)とアゼルバイジャン人(アゼリー人)とトルクメン人、アフロ・アジア語族系ではセム語派のアッカド人とバビロニア人やアッシリア人やカルデア人、そしてまた聖書に頻繁に出てくるヘブライ人やユダヤ人やイスラエル人やサマリア人、そしてモアブ人やアンモン人やカナン人やアモリ人やナバテア人やフェニキア人やアラム人の現代アラム語話者(アッシリア人、ユダヤ人)、さらにアラブ人やマルタ人があり、クシ語派のソマリ人、ベルベル語派のベルベル人、チャド語派やエジプト語派の古代エジプト人やコプト語典礼使用者(コプト正教徒)。現在の中東地域では、これらの民族が混在しているのです。
 今、世界の潮流は、多様性の一致です。教皇の来日を控えて、この一週間は教皇の意向に心を重ねて、中東での多様性の一致について思いをいたし、ともに祈ってまいりましょう。