2020年6月  2.心を開く
 もう2002年と一昔前のことですが、「あしがらさん」というドキュメンタリー映画が作成されました。東京の新宿駅西口周辺で、他の路上生活者との交わりをも避けて暮らしていた「あしがらさん」と呼ばれていた初老の男性が、一人のボランティアとの関わりを通して少しずつ心を開き、グループホームで生活し、介護のデイサービスにも参加することになった3年間の記録です。映画を製作したのは、そのボランティアの青年で、カメラを回して記録することの了解を得て、関わりを続けました。「あんただけは信じるよ」と絞り出すように青年に語ったあしがらさんの言葉が印象深い、とても心が和む映画です。日本の教会は、孤立している人に私たちの側から関わり、絆を取り戻すための支えとなることができるようにと、今月の意向を掲げています。まさに「あしがらさん」に関わった青年ボランティアの生き方を目指すようにと促しているのでしょう。
 路上での生活を余儀なくされているからといって、その人が必ずしも孤立している状況にあるとは限りません。同じような境遇となった人たちと、互いに支え合いながら暮らしている人もたくさんいます。家族と一緒に暮らしていても、意向の説明にあるように「人格的な交わりを失って孤立している人」もいます。多くの場合、心に傷があって、人との関わりのなかで受けた辛く苦しい体験をしているのです。「誰も信じない」と心を閉ざして、うずくまっているのでしょう。
 孤立した人の心を開くには、その人の心に触れることを、避けて通ることができません。心に触れられることを拒んでいるのですから、簡単なことではありません。「私に親切にしてくれるのには、何か魂胆(こんたん)があるのだろう」といつも疑いの目でにらみつけています。心を傷つけられるのが恐ろしいのです。では、どのようにすれば、ぴったりと閉ざされた心を開くことができるのでしょうか。そのヒントは、「あしがらさん」にあります。それは、愛の無償性です。アガペーです。何の報いも得られないのになぜ関わりをもつのかという問いは、関わりを拒んでいる人の心を開く「鍵」なのではないでしょうか。
 心を閉ざして孤立している人々に、無償の愛で関わることができるようにと祈り願いながら、この一週間を過ごしてまいりましょう。