2020年7月  3.愛情ホルモン
 新型コロナウイルスの感染症は、終息の方向に向かっているのでしょうか。検査態勢が整って、症状のない若い世代を対象としたPCR検査が行われるようになったことから、一日の感染者数は相当数にのぼっていますが、重症化するケースは少なくなり、死亡者数も減少しています。このパンデミックという人類にとって未知の敵に対して、すべての英知を結集して、冷静に立ち向かっていくことができるように、祈りを続けて参りましょう。
 ウイルスに感染しないために、日常生活ではこまめに手を洗ったり、人との直接的な接触を避けたりしなければなりません。新しい生活様式といわれる行動の制限は、スポーツの試合が無観客で行われたり、挨拶の折りに交わされる握手やハグをしないように指示指導されたりと、私たちの感情が楽しさや嬉しさに揺れる機会を奪っているといった現実があります。そのことが、大きなストレスの原因になっていることがありますので、感染防止対策をしっかりと行ったうえで、人間として自然な行為や行動が阻害されないようにすることもとても大切です。
 私たちの身体では、たくさんの種類のホルモンが分泌されていて、体と心のバランスが保たれるようなメカニズムが働いています。ホルモンの一つに、「オキシトシン」があります。これは、授乳を促進するはたらきをもっていて、乳首の刺激などによって脳から分泌されます。女性だけのホルモンではなく、男性にも普遍的に存在することが分かってきました。そして、好戦的な感情を抑制し、社交性、愛情、信頼を増進させるはたらきがあることも分かってきました。認知症が進行して、実の娘に対しても激しい暴力を振るうまでになってしまった高齢の母親が、手と腕を長い時間さすってもらうことによって、暴力がなくなり、会話も始まったというケースから、オキシトシンの分泌が作用していたことが分かりました。このように、皮膚への刺激やスキンシップによっても、オキシトシンが分泌され、愛情や幸せを感じるようになるので、オキシトシンは「愛情ホルモン」とも「幸せホルモン」とも呼ばれています。
 新しい生活様式のもとでは、ソーシャルディスタンスを保つことが奨励されて、直接的な皮膚の刺激やスキンシップを避けるように指示されていますが、私たちが愛に満たされた幸せな生活を送るためには、オキシトシンの助けが必要です。万全な対策を講じながら、子どもにとっても、大人にとっても、そして高齢者にとっても大切なスキンシップが継続的になされるように心がけながら、パンデミックの終息を願う祈りを続けてまいりましょう。