2020年10月  2.ワクチン
 私たちが生活しているこの地球には、細菌やウイルスなど、さまざまな病気を引き起こす微生物が存在します。このような微生物を病原体といい、この病原体が体の中に入ると感染症があらわれ、それが原因で死に至ることがあります。しかし、ヒトのからだには、一度入ってきた病原体が再び体の中に入ってきても病気にならないようにするしくみがあります。このしくみを免疫といい、病原体を覚えていて、身体の中でそれと戦う準備を整えます。そうすることで、再度、病原体が体の中に入っても病気にかからない、もしくは病気にかかっても重症化しないようにできているのです。
 このしくみを利用したのがワクチンです。ワクチンを接種することで、私たちの身体は病原体に対する免疫を作り出します。ただし、実際にその病気を発症させるわけではなく、病原体の毒性を弱めたり、無毒化したりして、コントロールされた安全な状態で、人為的に感染させて免疫を作るのです。このようにして、いざ病原体が入ってきたとしても、ワクチンの接種によって、あらかじめ備わった免疫で退治できるようになります。
 18世紀の終わりに、イギリスのエドワード・ジェンナーは、天然痘予防の論文を発表しました。これが歴史上の最初のワクチンです。それから約100年後にフランスのパスツールやドイツのコッホによって、現在普及しているワクチンの原理を構築しました。
 今日の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際して、各国でワクチンの開発が進められています。それが実用化され、また同時に特効薬が開発されれば、新型コロナウイルスは、もはや脅威ではなくインフルエンザのような感染症のひとつと理解されるようになるでしょう。
 ワクチンの開発での大きな課題は、その安全性です。免疫をつけるという本来の目的とは異なる好ましくない接種後の症状を副反応といい、接種部位の痛みや赤い腫れ、微熱などの症状は数日でおさまりますが、まれに重篤な副反応が起こることもあります。実用化を急ぐあまり安全性の検証がおろそかになることは、絶対に避けなければなりません。
 さて、日本の教会は、「医療や科学に携わる人々が、それぞれの専門分野を通していのちに仕え、神の創造の業に参与することができますように」と祈ることを今月の意向として掲げています。人類が蓄積してきた知恵を結集して、新型コロナウイルスのワクチン、そしてその治療薬の開発に携わる人々のうえに、神のいつくしみと愛が注がれて英知に導かれ、一日も早い実用化に向けて貢献することができるようにと、私たち一人ひとりが祈りをささげてまいりましょう。