2021年1月  5.宗教多元主義
 教皇は「人間愛」と題した今月の福音宣教の意向で「諸宗教の兄弟姉妹と・・・豊かな親交に結ばれて生きる恵み」について、それが与えられるように祈ることを奨めています。カトリック教会が他の宗教を信じる人々に対して、どのような基本姿勢をとっているかについては、今月の初めにお伝えしましたが、伝統的な宗教が他の宗教について寛容な態度を示すようになったのは、人類の歴史を鑑みて、極めて新しい現象と言うことができるでしょう。そもそも宗教は、その地域ごとに棲み分けていた民族の固有の文化の中で育まれてきたものですから、決して普遍なものではなく、固有のものなのです。そして、その宗教の中では、人間を超える大いなるものが、その民族を導いてくださり、また、一人ひとりの生命を守ってくださるので、他の民族が信奉している宗教を否定し、ときには敵視する対象にすら位置づけられていたのでした。宗教排他主義と言われている考え方です。
 民族が他の地域に移動し人々が交わり、文化交流が起こると、次第に諸宗教が混在する社会へと変化します。そして宗教の坩堝(るつぼ)と言われるインドでは、ヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教、イスラム教、キリスト教、シク教、ゾロアスター教などの数多くの宗教が信奉され、異なる宗教の家庭が隣り合って生活を営む状況にもなっています。つまり、近現代に入って世界の一体化が進む中で、宗教間対話や他宗教に対する理解が進んできたのです。そして、宗教の多元性を唱える動きがさまざまな宗教の内部で現れ、その結果として宗教多元主義という思想が生まれることになりました。
 この思想では、諸宗教は、宗教的な「実在」に対する異なる仕方での応答の形であるとみなされ、それぞれの宗教の信者がその信仰の枠組みの中において救済にあずかっているのだとされています。もはや諸宗教は対立的な関係ではなく、相互補完的なものであるとみなされるわけです。
 今、世界中で人類にとっての脅威として猛威を振るっている新型コロナウイルスに立ち向かうには、私たちは国や人種、民族の壁を越えて手を携(たずさ)えなければなりません。さらに、宗教の壁も越えて、この地球で命をいただいている人類の仲間として、「人間愛」をもってそれぞれの神に、祈りをささげることが求められるのでしょう。
 すぐ近くに住む、異なる信仰に生きている人々に心を寄せながら、一日も早い感染症の恐怖からの解放を求めて、祈りをささげてまいりましょう。