2021年4月  1.人権の新たな危機的局面
 教皇は今月の意向として「基本的権利」を取り上げ、「いのちの危険にさらされながら基本的権利のために戦う人々のために」祈ることを奨めています。今日の世界情勢を概観すると、様々なかたちでの人権侵害が目に留まります。国家による少数民族に対する非人間的な扱い、軍事政権による市民のへ弾圧、人身売買や強制労働など、枚挙に暇(いとま)がありません。
 日本の教会は、2008年12月、世界人権宣言60年にあたって「すべての人の人権を大切に」と題する司教団メッセージを発表しました。そこでは、人権侵害が生じる背景を分析し、私たちの生き方の方向転換が必要なことを示唆しています。10年以上前の文書ですが、重要な点を指し示しているので、教皇が基本的権利について祈ることを呼びかけているこの時に、その文書を確認しておくことにします。

 「世界人権宣言から 60 年、人権の擁護と促進のために多くの人が努力したにもかかわらず、人権が侵害される事件は後を絶たないばかりか、その背景となる問題は深刻化し、わたしたち人類は世界的規模でこれまでにない新たな事態に直面しています。『もともとすべての人に公平に配分されるはずの生活手段とそこから得られるさまざまな利益の不平等な配分』 により、格差が広がっています。現代世界に蔓延している市場原理主義的価値観は、共通善の促進より利益追求を優先する結果、この格差をいっそう広げ、人権侵害を構造的なものにしています。この市場原理主義は環境問題にも深刻な影響を及ぼしています。気候変動に伴う旱ばつや水害ばかりでなく、燃料や食糧価格の急騰、水資源の民営化などがこれまでになく広い範囲の人びと、中でも貧しい人たちにいっそうの打撃を与えています。このまま何の対策もたてることなくこの事態を見過ごすならば、生存の危機に陥る貧困層が拡大するのは目に見えています。もし、個人、企業、国家が利益追求だけに走り続けるならば、人間の尊厳は踏みにじられ、一層暴力的で歪められた世界に陥っていきます。そこでは『人間の尊厳が蹂躙された結果、悲惨と絶望のうちにある犠牲者は容易に暴力に訴える誘惑に駆られ、犠牲者が平和の破壊者となる』こともあるのです。一刻も早くこれらの状況を変えなくてはなりません。もはや猶予はないのです。わたしたちは、『個人の利益追求によって支配される世界ではなく、全人類の共通善に対する心づかいによって支配される別の世界』 を求めていきたいのです。そのためには世界がすでに共有しているはずの大切な基準、すなわち世界人権宣言を今一度確認し、あらゆる分野で具体的に実現していくことが必要です。」
 https://www.cbcj.catholic.jp/wp-content/uploads/2008/12/08HRjp.pdf

 この文書が意図していることを味わい直し、人間としての基本的権利が擁護されるようにと祈りをささげてまいりましょう。