2021年4月  2.ステレオタイプ
 主のご復活の典礼暦を経て、私たちは希望を新たに新しい年度に歩みを進めています。新しい環境で新しい生活を始めたすべての人々が、優しさにあふれた人の輪に迎えられて、心豊かに日々を送ることができるようにと、祈りをささげましょう。
 さて、日本の教会も、教皇と同じように人間の基本的権利を取り上げ、「差別が撤廃され、人権が尊重される社会を築くことができますように」と祈ることを奨めています。性別、人種や肌の色、国籍や出身地、職業などによって生じる偏見や差別は、人間が営むあらゆる生活の場面に及んでいるといっても過言ではありません。そこで、差別がどのようにして起きてしまうのかを、社会心理学の研究の成果から学ぶことに致しましょう。
 差別は、偏見によって生じ、偏見はステレオタイプによって生じるとされています。「女性のほうが家事や育児に向いている」とか「福島から来た子どもは、放射能で汚れている」といった人々をひとくくりにして固定観念を抱いてしまう傾向は、頻繁に見受けられます。このように、ある集団に属する人々に対して特定の性格や資質をみんなが持っているように見えたり、信じたりする認知的な傾向を、ステレオタイプと言います。そして偏見とは、そのステレオタイプに、好感、憧憬、軽蔑、憎悪といった感情を抱くことを言います。そして差別とは、ステレオタイプや偏見を根拠に、回避、攻撃、無視、暴言などが行動として表れたものを指します。
 このようなことがなぜ人間社会で起きてしまうのでしょうか。その根底には「自分が有利になりたい、偉くなりたい」といった自尊心、自己肯定感があり、それが充足されていない人が違うタイプの人を下にみて、優越感を高めるために行う行為であると考えるのが一般的です。『偏見の心理』の著者オルポートは、違うタイプの人たちを敵と見てしまう根拠に、「私たち」と認識できる人の輪の広がりとしての「内集団」とそれ以外を「外集団」と区別する人間の性向を指摘しています。
 差別や偏見のない、すべての人が基本的な人権を保障されて生きることができる社会を築き上げるためには、このような人間の性向や心理的なメカニズムを理解した上で、まずはステレオタイプを抱かずに個々の人、一人ひとりをかけがえのない人間として受け入れることから始めなければなりません。つまり、多様性(ダイバーシティ)を尊重し、すべての人は、「神が創造された傑作である」として分け隔てなく受け入れることが、とても大切だと理解されます。
 差別や偏見のない暮らしを願い、私たちが陥りやすい「ステレオタイプ」的な理解を超えて、一人ひとりと向き合いながら過ごしていく一週間と致しましょう。