2021年4月 5.原発事故と人権 |
日本国憲法で保証されているはずの基本的人権が、福島第一原子力発電所の事故によって侵害されました。そして、その人権侵害は、10年を経過した今日も続いています。それは居住権の侵害です。 放射線量が非常に高いレベル、具体的には、空間線量率から推定された年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らない恐れがあることから、バリケードなど物理的な防護措置を講じて立入を禁止している区域があります。帰宅困難区域と言います。原発周辺の7市町村にまたがり、面積は福島県土の約2.4%を占める約337平方キロメートル。住民登録者は2021年1月末で約2万2000人です。ここでの宿泊は全く認められていません。住民の方の一時的な帰宅も制限され、市町村長が通行証を発行した場合に限って実施可能となります。 この区域の北側に、南相馬市があります。市は2016年5月に全世帯に憲法全文の小冊子を配布しました。市長の桜井勝延氏が、「『原発事故で、憲法に書いてある生活ができなくされた。これは憲法違反でしょう』と語気を強めて言った」という報道(2017年7月23日朝日新聞社説)がなされています。「(南相馬市)小高出身の憲法学者、鈴木安蔵が終戦直後にまとめた憲法草案要綱は『国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス』と生存権を明記し、現憲法25条につながった。多くの市民の生活が暗転したなか、原点を再認識してほしいとの思いが、桜井勝延市長にはあった。」とも報道されています。 このように、生存権を脅かしている原発事故は、安全神話によって歪曲され、核のごみを放出しながらも、日本各地で、また世界各国で運転を続けています。私たちは、生存権、居住権を脅かされ、さらには奪われて苦しんでいる方々の痛みに心を重ねて、祈りをささげてまいりましょう。 この4月は、教皇の意向、日本の教会の意向に合わせて、基本的人権について思いをいたし、祈りをささげてまいりました。理念のうえで、また法的な面で権利は保障されているものの、現実の生活ではその権利が侵害されている多くの社会的状況があります。権利回復のために力を注ぐ方々のためにも、祈りをささげる一週間といたしましょう。 |