2021年5月  4.投資と投機
 教皇は、毎月全世界に向けて直接語りかける「教皇のビデオ」の中で、金融の世界について述べ、「金融投機は慎重に制限されなければなりません。『投機』、このことばを強調したい」と語っています。投機とはどのような事柄を指しているのでしょうか。投資と投機とに、どのような違いがあるのでしょうか。
 投機とは、機会(チャンス)に投じると書き記されるように、短期的な値上がりのタイミングを狙って資金を投じることを言います。ですから、投資先の会社や事業体がその資金を用いて事業を成功させたり、投資した資産の価値が増大することを望んだりすることよりも、投資金額(外国為替や金融商品とその類似品の買値)と回収金額(売値)の差額によって生じる利益(利ざや)を目的としています。
 従って、金融に資金を投じるという行いそのものは同じですが、目的が異なっていると理解できます。株や債券に限らず、あらゆる金融商品、あるいはすべての商品が投機の対象となりえます。16世紀にはオランダのチューリップが世界的に投機の対象となったり、今日では昆虫のクワガタや東洋蘭さえ対象となったりしています。
 人々がその対象となる商取引に資金を投じればそれだけ需要(ニード)が増加すると理解されるので、その商品は値上がりします。値上がりすると、利ざやを稼ごうとする心理が市場で働いて、ますます値上がりは助長されます。次第にその商品の本来の価値をはるかに超えた値が付けられて、実態とはかけ離れた石けんの泡のように吹けば飛んでしまいそうな虚構が構成されてしまうことも起こります。これがバブル経済といわれる現象です。そしてひとたびその虚構が崩れ始めると、急激に価格が下行し、経済的な混乱を招いてしまうのです。不動産への投機によって生じたバブル経済が破綻したことは記憶に新しいことです。
 金融は、資金が余剰しているところから資金が不足しているところに融通して、経済を活性化させるはたらきがありますが、投機的な資金投下ばかりが過熱することは健全ではありません。何らかの規制が必要でしょう。教皇は各国の金融界で働く人々が知恵を絞って健全で秩序だった金融の仕組みを構築することができるようにと願っています。私たちもこの意向に心を重ねて、祈りをささげてまいりましょう。