2021年11月  3.コロナ禍の自殺
 2020年は新型コロナウイルス感染症の流行の影響によって、女性や若者の自殺が増加しました。2020年の自殺者の数は2万1077人で、男性は前年より26人減少しましたが、女性は934人増加して7025人となりました。2年ぶりの増加です。しかも若年層で増加の傾向が顕著で、小学生15人、中学生145人、高校生338人の合計498人に上り、1978年の統計開始以来最多だった1986年の401人を超えています。
 日本の自殺者数は、諸外国とくらべて比較的高い水準にあります。1997年までは概ね年間2万人ほどで推移していましたが、金融機関の破綻など経済危機が起きた翌年からは一挙に8千人を超える増加となり、2003年には3万4千人を超えるまでになりました。政府をはじめさまざまな行政機関、ボランティア団体などが対策に取り組み、その後減少の傾向に転じましたが、このパンデミックの影響による経済の悪化の影響で、2020年から増加に転じているのです。
 自殺に至る経緯はさまざまで、精神障害によって衝動的に自らの命を絶ってしまうこともありますが、「複合的な悩みや課題が連鎖する中で、『もう生きられない』『死ぬしかない』と追い込まれた末に亡くなっている」とも報告されています。
 また、自殺は連鎖する傾向も指摘されています。生活に行き詰まって自殺したことが報道されると、同じような状況に置かれた人が、同じ道を歩んでしまうという傾向です。ですから、細心の注意が必要で、必ず相談先も明記した上での報道が求められるのです。
 11月はキリスト教にとって死者の月です。神からいただいたいのちを、いずれの日にか神にお返しする日が来るのは人間の宿命ですが、自らその命を絶つことは実に空しく、また周囲の人々を悲しませることになります。生きることが嫌になる要因を1つでも取り除き、生きることが楽しくなる要因を見いだせるように、皆で支え合って生活することが、自殺を防ぐ大きな助けとなります。将来の不安や絶望を夢と希望へ、失業や不安定な雇用をやりがいのある仕事や趣味へ、孤独から家族や友人との親しい交わりへと、人間らしい生活を取り戻していくために、支え合うことが求められるのでしょう。
 身近な人の中に、経済的に困窮している人はいないか、仕事を失っている人はいないか、希望を失って孤立している人はいないか、注意深く見渡して、その人のための小さな支えになることを心掛けて生活してまいりましょう。