2022年1月  2.生活困窮者
 日本の教会は「すべてのいのちを守る」と題した意向を掲げ、「弱い立場に置かれている人々を保護し、人間としての尊厳が尊重される」ことを願い求めるようにと招いています。今年こそ、希望に満ちた年となりますようにと祈って迎えた矢先に、新型コロナウイルスの変異株が急激に蔓延して、再び生活に様々な制限が課せられる事態に変化しています。その中で、仕事を失ったり、収入が激減したりして、生活基盤が急激に崩壊してしまった人が生まれています。事態があまりにも急激なので、その実態の詳細は把握できていませんが、自殺者の数が増加の傾向に転じたことなどからも、その深刻さは想像にかたくありません。
 このような状況の中で、人々が陥りやすい状態は、孤立と孤独です。嬉しかったこと、楽しかったことを誰かに伝えることは難しくはありません。ところが、苦しかったこと、辛かったこと、困ったことなど、自分が抱いているネガティブな思いを人に伝えるのは、決して容易なことではありません。自分が置かれている状況を人に伝えることができなくて、表面的には何事もないように振る舞っていても、実は人間としての生活を維持するのにぎりぎりのところまで追い込まれていることはよくあることです。
 そのような時に助けとなるのは、周囲の人の一言です。まずは「大丈夫ですか」の一言から、「何か困っていないですか」といった声かけでしょう。そして、返された「大丈夫です」の言葉だけでなく、その言葉のトーンや表情、仕草などに隠された「でも、本当は困っていて苦しいんです」といった本音を読み取ることも、大切になってきます。
 もし、困っているならば、様々な公的救済制度がありますので、そこにたどり着く手助けをすることも大切です。日本では、2015年4月から「生活困窮者自立支援制度」が始まり、生活全般にわたる困りごとの相談窓口が全国に設置されています。居住地の自治体や社会福祉法人、NPO法人、民間企業などが、その相談窓口となっています。さらに、現在は「新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金」という制度が設けられ、申請の期日も3月末日まで延長され、再支給も可能となりました。
 生活困窮者自立支援法では、生活困窮者とは『現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者をいう。』と定めています。制度につながることができれば、いのちと人間の尊厳をつなぎ止めることができるのですが、やはり課題は自分の苦しみを打ち明けることの難しさにあるようです。自ら「生活困窮者」であることを認めるまでには、プライドや世間体などの幾重(いくえ)にもなる心の中の壁を越えなければなりません、このような人の弱さにも寄り添って、すべての人の「人間としての尊厳が尊重される」ように願い求めてまいりましょう。