2022年3月  1.生命倫理の新しい課題
 教皇は回勅『ラウダート・シ』の中で、「バイオテクノロジーの新局面(130〜136)」と題して、動植物への人的介入に関して省察を加え、「こうした人間活動の、目標、影響、全体的背景、そして倫理的制約についての再考がつねに必要です」と述べています。そして、「どんな介入も、それ自身の本性にかなった発展、神が意図されたような被造界の発展の一助となるためにのみなされる、自然への働きかけである」とはっきりと示しています。
 ともに暮らす家である地球を大切にするために、私たち一人ひとりの生きる指針を示した「ラウダ―ト・シ」を具体的に実践する指針として、教皇は今月の意向として「生命倫理の課題へのキリスト者の対応」をとりあげ、「新しい課題」に対してもいのちの尊厳を守り続けることができるようにと祈ることを促しています。
 そこで、生命倫理の課題には、どのような領域があるのか、ここで確認しておくことにしましょう。2001年に司教団は『いのちへのまなざし』の初版を発行しました。そこでは第3章に「生と死をめぐる諸問題」として、「出生前診断と障害者」「自殺について」「安楽死について」「死刑について」「生命科学の進歩と限界」「脳死と臓器移植」「ヒト胚の研究利用・人間のクローン・遺伝子治療」「環境問題」といった諸問題が取り扱われました。そして16年の歳月を経て2017年に、第3章に全面的な改訂を加えて『いのちへのまなざし・増補新版』を発行しました。もちろん、『ラウダ―ト・シ』が2015年に発表されたことを受けての改訂でしたが、特に「総合的(インテグラル)なエコロジー」の視点からの省察が行われました。
 その改訂の中で注目されるのが第3章の3で新たに取り上げられた「終末期医療」です。延命と苦痛緩和に関する医療技術が発展したことによって、人が最期をどう迎えるかが大きな課題となっている今日、自分の家族、あるいは自分自身についても、例えば気管挿管や胃瘻(いろう)を「行わない」あるいは「中止する」といった具体的な判断と選択が突きつけられています。ですから、1日でも、1時間でも、1秒でも長く生きることを最優先にする延命優先の医療から、尊厳ある死を迎えることができるような医療への転換が、広く社会に浸透するようにと、祈り願いたいものです。
 教皇の呼びかけのように、「いのちの尊厳を守り続けることができるように」と、ともに祈りをささげてまいりましょう。