2022年7月  1.高齢者の知恵
 教皇は意向として「高齢者」を取り上げていますが、「人生の終末を有意義に過ごすことができるように」といった高齢者へのいたわりや配慮を意図したものとは異なり、文化の継承における高齢者の役割、特に若者に伝えることの大切さに着目した斬新なアイディアを提供しています。
 高齢者の特性を「ルーツと記憶を体現する」と表しています。いのちの伝承であるルーツは、遡(さかのぼ)れば今から30〜10万年前にアフリカで誕生したとされているホモ・サピエンスとなります。今、いのちをいただいて生きている一人ひとりは、この繋がりの中にあります。どこかでその繋がりが途絶えていたら、その人のいのちは存在しません。それほどに、いのちの尊厳は大切にされなければなりません。
 しかし一方では、記憶の限界を受け入れなければなりません。一人ひとりの命のルーツを、どこまで記憶の中で遡ることができるでしょうか。1つのいのちは、母と父から生まれ、その母も父も、その母と父から生まれ、それの連鎖のうえに成り立っていることは紛れもない事実なのですが、記憶の中にはそのルーツのすべてが積み上げられているわけではありません。当然のことですが、父と母は1人ずつ2人、祖父母は4人、曾祖父母は8人、その先の代の先祖は16人、そして32人、64人、128人と、1人の人間のルーツには宇宙的な数字にのぼる人が積み重なっているのですが、曾祖父のすべてを自分の記憶の中にとどめている人など、ほとんどいません。私たちは、いのちの時間を共有できた人のほかは、記憶にとどめることが難しいのです。
 今の時代を共有している若者たちに向かって、高齢者はその知識と記憶を伝える責任があると、教皇は語っています。家族や親類の枠を超えて、地域でも、あるいは教会でも、若者と高齢者が交わりを持つ機会を探しましょう。高齢者がいのちを神にお返しする瞬間まで、いただいた恵みも苦しみも「希望と責任をもって将来を歩む」若者に知識と経験として伝える、尊い役目を担い続けることができますようにと、心を合わせて祈ってまいりましょう。