2022年8月  2.かかりつけ医
 今月の教皇の意向は「小規模事業」です。
 経済は世界規模で動いていて、その仕組みは資本主義の論理に依拠しています。市場で必要とされているものを標準化し大量生産することによって安価で安定的に提供する合理的なシステムが、国境を越えて構築されています。ところが、市場で必要とされているものは、実に多様だという現実も、見過ごすことはできません。そこで、標準的な仕様に消費者の好みに応じた機能を付与する、オプションの制度を加えて、多様性に対応するようにしています。
 意向に掲げられた「小規模事業」は、このような大量生産大量消費では対応しきれない、さらに細かな消費者の必要に応えるものとして、社会の中に組み込まれています。私たちの日常生活は、この「小規模事業」の存在なくしては成り立ちえないのです。
 新型コロナウイルス感染症が再拡大し、医療現場は混乱しています。発熱の原因が新型コロナウイルスへの感染であると確定されれば、前述の標準化された医療サービスの仕組みで対応できます。しかし、一人ひとりの人間の身体は、持病があったり既往症があったりと実に多様で、必要に応じた医療サービスを受けるためには、患者の状態を日ごろから把握しているいわゆる「かかりつけ医」の判断や処方が、いのちを救うための重要なポイントだということができるでしょう。
 行政や法人が設置している病院が大企業のような役割を果たしているとすれば、開業医である町のお医者さんは小規模事業者の役割を担っていると考えることができるでしょう。町のお医者さんが一人ひとりの健康状態をきちんと把握できるような仕組みとしてホームドクター制度がありますが、その体制が整っていないわが国では「かかりつけ医」の役割は多大なものがあります。
 パンデミックの一日も早い収束を願いつつ、町のお医者さんが医療危機にあっても、その事業を継続する道を見いだし、地域社会に奉仕することができるよう、祈りをささげてまいりましょう。