2023年1月  3.切磋琢磨
 教皇は、「教育にたずさわる人たち」を意向として掲げ、「競争ではなく友愛を育みながら」子どもたちの成長のために尽くすことができるようにと、ともに祈ることを奨めています。 
 今日の教育制度では、年齢によって学年が区分され、同世代の友人は常に良き仲間であると同時にライバルとして位置づけられてしまう宿命にあります。したがって、競争を余儀なくされる場面が、生活の中でたびたび生じます。その競争を、成長を促す良い刺激とするためには、どのような配慮が必要なのでしょうか。
 最初に取り上げたいのは、多様性の容認です。今日の社会で、宗教や福祉の領域ばかりでなく、diversity and inclusion はビジネスの世界でも大切にされるべき価値として位置づけられてきました。人はみな同じ、ではなく、人はみんな違う、そのすべてを受け入れて、ともに生きていこうという姿勢です。すべての領域で競争に勝っていちばんになることなど、出来はしません。得意な領域もあれば不得意もあり、それを認め合うのが多様性の容認です。
 もう一つは無償の援助です。物事に先んじた人は、その要点を知恵としてつかんでいるのですが、それを誰にでも喜んで分かち合う姿勢が求められます。その姿勢は、さらに先に進むための力にもなります。競争に勝った人が負けた人の世話をすることができれば、勝った側も負けた側もさらに水準を上げることができるからです。
 切磋琢磨ということばがあります。学問や人徳をよりいっそう磨き上げることを意味しますが、互いに励まし合い競争し合って、共に向上することとしても、このことばが用いられます。この4つの漢字の「切」は獣の骨や角などを切り刻むこと、「磋」は玉や角を磨くこと、「琢」は玉や石をのみで削って形を整えること、「磨」は石をすり磨くことで、原石を丁寧に磨き上げて、美しい宝石に仕上げることの意から、人格を磨き上げることに通じるようにと、唱えられてきました。
 教育に携わる場面で、それぞれの成長に互いを役立たせていくために、切磋琢磨の真の意味をくみ取り、見守っていく姿勢が大切です。教皇の意向に合わせて、競争を成長につなげることができるような指導者を祈りによって支えてまいりましょう。