2023年6月  1.拷問の卑劣さ
 ウクライナでロシア兵による拷問が明らかになったとの報道が3月にありました。国連の人権監視団は、ロシア側から解放された捕虜の聞き取りから、拷問や虐待を受けたとの証言を得たことを発表しました。主な拷問の手口は、ハンマーや棒による殴打や電気ショック、袋で窒息させる行為、負傷部位の踏みつけ、低温状態への放置、犬を使った攻撃などでした。
 拷問は、人権を無視し、人間の尊厳を踏みにじる卑劣な行為です。拷問とは、「身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人に重い苦痛を故意に与える行為であって、本人若しくは第三者から情報若しくは自白を得ること、本人若しくは第三者が行ったか若しくはその疑いがある行為について本人を罰すること、本人若しくは第三者を脅迫し若しくは強要することその他これらに類することを目的として又は何らかの差別に基づく理由によって、かつ、公務員その他の公的資格で行動する者により又はその扇動により若しくはその同意若しくは黙認の下に行われるものをいう」と「拷問等禁止条約」で定義されています。
 戦場での兵士の精神状態について、心理学では次のように説明されています。
 「外部からの刺激によってあるスイッチが脳に入ると、まるで人格が変容したように、無感情、無感覚のまま、何の抵抗もなく殺戮や傷害行為を行うことができるように、平時の訓練で洗脳、教育が行われている。」
 この洗脳、教育、訓練が行われる組織が、軍隊です。1980年に韓国で起きた光州事件では、韓国軍が自国民を大量に虐殺するという事態が起きました。軍隊で訓練された兵士が、攻撃命令によってスイッチを入れられて、無感情、無感覚で自国民を殺戮したのです。このことからもわかるように、拷問そのものは卑劣な行為ですが、それを実行できるように訓練する軍隊の存在こそが、人間の尊厳を危うくする元凶なのでしょう。戦場から離れた兵士たちの無意識の自我に刻み込まれた行いが何らかの誘因でフラッシュバックすることも報告されています。
 「拷問等禁止条約」は1984年の」国連総会で採択され1987年に発行し、日本は1999年に加入しています。国際的な条約はあるものの、戦場においては日々拷問が繰り返されています。教皇の意向にあるように、「拷問廃止が実現される」ようにと祈り、また、軍隊が必要のない平和な社会を築くことができるようにと、祈ってまいりましょう。