2023年6月  5.世界人権宣言第5条
 「何人も、拷問又は残虐な、非人道的なもしくは屈辱的な取扱いもしくは刑罰を受けることはない。」これは、世界人権宣言の第5条の条文です。
 第二次世界大戦を経て、再び戦渦に見舞われることがないように、戦勝国を中心に国際連合が創設されました。それとともに、特定の人種の迫害、大量虐殺などの人権侵害、人権抑圧が横行することのないように、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認する(前文)」ことをうたった世界人権宣言が、1948年12月10日の国連第3回総会において採択されました。
 これは、基本的人権尊重の原則を定めたもので、それ自体が法的拘束力を持つものではありませんが、初めて人権の保障を国際的にうたった画期的なものでした。前文と30の条文からなり、各国の憲法や法律に取り入れられるとともに、国際会議の決議文などにも取り入れられるなど、強い影響力をもつものです。長い歴史の中でとうとう私たちが認め合うことができた、すべての人の基本的人権の尊重が、原理原則としてですが、世界的に是認された意義は、とても大きなものです。
 その第5条に、はっきりと拷問の禁止がうたわれています。ですから、教皇の意向に掲げられた「拷問の廃止」は、原則論ではなく、具体的な状況での事柄なのです。今日も続いている、ロシアとウクライナの戦闘の最中にも、拷問が行われていることが報告されていて、心を痛めます。70年以上前に国際的に承認されている事柄も、戦争という狂気の現場では意味がなくなってしまうのでしょうか。
 教皇の意向に心を合わせて祈りをささげ、そして拷問を用いるような状況、環境を創出している軍事的、暴力的な対立が無くなりますようにと、祈りをささげてまいりましょう。