2023年7月  3.種なしパン
 ホスチアは、カトリック教会では司祭によって聖別され聖体(ユーカリスト、ホーリー コミュニオン)となる円形の薄いパンのことで、その語源はラテン語の「いけにえの供え物」です。
 ホスチアは、水と小麦粉だけで作られていて、発酵させて焼き上げたパンと異なり、イースト菌を加えない「種なしパン」です。麦栽培の文化が発展するとともに、加工した麦を保存できるように工夫し、しかも、弱い火力でも調理できることや、移動するテント生活でも持ち運べること、平焼きをすると食器としても使用できることなどから、パレスチナや中央アジア、南アジア、中央アメリカなどで主食として用いられてきました。
 聖書時代には、酵母菌であるイースト菌を培養したり保存したりする技術がなかったため、発酵させた生地をその時に全部焼いてしまうのではなく、一部を生地のまま残しておいて、その小片を新しく小麦粉を練った中に混ぜて発酵させて、それから焼いていました。そのようなことから、残しておいた小片を「パン種」と呼んでいました。
 時は「出エジプト」の場面にさかのぼります。急いでエジプトを脱出しなければならなくなったイスラエルの民は、パン生地を発酵させている時間がないので、パン種を入れないパンを食べました。そのことからでしょうか、過越の祭りとそれに続く7日間の種なしパンの祭りの、合わせて8日間、パン種を用いることが禁止され、今でもこの習慣は守られています。
 イエスが最後の晩餐で弟子たちとともに食事をした時は、過越の祭りの時で、用意されていたパンは、種なしパンでした。「これはあなたがたのために渡される、わたしのからだである」と言って手に取り上げたパンは、ふっくらと焼きあがったパンではなく、小麦粉を水で溶いて焼いただけのものだったのです。
 今日、聖別に用いられるホスチアは、女子の観想修道会などで製作されたものですが、信徒のグループなどが自分たちで種なしパンを焼いてホスチアを作ることもあります。
 教皇の意向である「聖体を中心に据えた生活」を祈るにあったって、長い歴史の中で人々の知恵の一つとして誕生した種なしパンのいわれに思いをいたし、日々を重ねてまいりましょう。