2024年1月  4.ヤマアラシのジレンマ
 ヤマアラシのジレンマという心理学的な現象があります。人間関係において、距離が近くなりすぎると、互いに相手を傷つけあってしまう現象です。針毛で身を包んだヤマアラシ同士が近づくと互いの針毛が相手に刺さってしまって近づけないことから、ヤマアラシのジレンマと呼ばれています。共通の価値観を持っていて、同じ方向を向いて歩んでいる中で、小さな違いが気になり始めて、そのことで相手を受け入れられなくなってしまう、そのような状態もこのジレンマの表れの一つです。
 人間関係ばかりではなく、グループや団体、組織の間でも、このジレンマから生じることが分かってきました。例えば、1970年代の学園紛争の時に、「内ゲバ」という同じセクトのなかでの暴力が生じていました。小さな意見の違いが気になって、受け入れることができなくなるのでしょう。最も悲劇的な事件は、連合赤軍というセクトで、命を奪ってしまうところまでに至ってしまったことでした。全く違う考え、思想を抱いている集団には目も向けず、暴力革命を目指す同士間での過激な争いが起きてしまったのです。
 多様性を受け入れる姿勢、多様性が豊かさの源であるという思想は、自己を防衛し自己の主張を貫くためには、役立たないかもしれません。しかし、神が私たち一人ひとりに固有の人格を与えてくださり、誰一人として同じ人はいないというこの現実は、人が豊かに生きるために与えられた恵みと受け取ることができるはずです。
 教皇の意向に示されているように、カトリック教会には、またキリスト教諸派には、多様な伝統や儀式が受け継がれています。小さな違いが気になって、神を賛美し神の栄光をたたえ、人として謙遜に愛の精神を生きるといった同じ方向への歩みの中で、自分の慣れ親しんだ伝統や儀式でないものを排除するのではなく、神の民の豊かさとしてそれを受け入れる姿勢が大切になります。教会で集う私たちが、ヤマアラシのジレンマに陥らないように、多様性を豊かさの源として受け止めてまいりましょう。