2024年8月  1.日本の選挙制度
 教皇の意向では、「政治におけるリーダー」が、「人々への奉仕において、人類として不可欠な成長と公益のために働く」ことができるようにと祈るように、私たちを招いています。政治におけるリーダーは、選挙によって選ばれます。ですから、公正と正義が貫かれる選挙制度を確立することは、極めて重要です。しかし実際には、いずれの選挙制度も完璧ではなく、試行錯誤を繰り返して、より民主的な方法へと推移してきました。
 日本において国政レベルで最初に実施された選挙は1890年で、前年に公布された議員法、衆議院議員選挙法に基づいて「満25歳以上、直接国税15円以上を納める男子」に選挙権が与えられました。資産家の男子が国民の代表を選ぶといった状況で、女性や貧しい人々は蚊帳の外に置かれました。
 1900年になると「直接国税10円以上納める男子」となり、1919年には「3円以上納める男子」となり、1925年に国税納付の制限がなくなって、ようやく男子普通選挙制度が成立しました。第二次世界大戦がポツダム宣言受諾というかたちで終息した1945年に、衆議院議員法が改正されて女性の参政権がようやく認められ、満20歳以上のすべての国民が選挙権を有する完全な普通選挙が実現します。
 有権者の民主化は進行しましたが、選挙制度のもう一つの課題は選挙区とそこから選出される議員の数です。小選挙区制度は一つの選挙区で一人だけが選出されます。中選挙区制度とは一つの選挙区につきおおむね3名から5名が選出されるもので、日本独自の制度です。大選挙区制度は、一つの選挙区で複数名を選出する制度の総称です。比例代表制度など具体的な実施方法には様々な形態が考えられています。日本では国政レベルでは現在、衆議院議員選挙で小選挙区選挙と比例代表選挙(政党を選ぶ)が同時に行われ、定員数465人のうち289人が小選挙区、176人が比例代表で選出されます。参議院議員選挙でも小選挙区と比例代表が同時に行われ、定数248人のうち100人が比例代表で、148人が選挙区選出となりますが、6年任期で3年ごとに半数が改選されます。
 制度は改革を繰り返して公正と正義が貫かれるようになってきましたが、もう一方で選挙そのものに対する関心が薄れてきたことも大きな問題です。投票率が最も高かったのは1955年の衆議院議員選挙で76.99%でした。65%から75%の幅で推移していた投票率は1996年に60%を切り、2014年には52.66%まで落ち込みました。投票時間の延長や期日前投票制度の導入など、改正がなされていましたが、政治への無関心は加速していると言えるでしょう。2015年に選挙権が満18歳まで引き下げられたことは、記憶に新しい制度改革です。
 選挙権を有する一人ひとりが、責任をもって投票することは、権利であると同時に義務でもあります。政治への関心を高め、国民として選挙での責任ある行動を望み、その実現を祈ってまいりましょう。