2025年5月  4.離職する新社会人
 教皇の意向は「労働条件」です。「仕事において充実感を覚え」ることができるような職業に就くことは、労働を通して社会に奉仕する一人ひとりにとって大切なことです。労働を通して人々にモノやサービスを提供し、その対価として報酬を得ることは、社会生活の基本のひとつです。個人や家族でそれを担う場合を別にすると、多くの場合、その活動は組織を通して行われます。組織は、大きな目標を達成するために一人ひとりに職務を分担させて、資本を投じて調達した様々な機械や設備を用いながら、モノやサービスを提供することによって収益を得、組織を構成する人々に分配する仕組みを備えています。組織は人員の不足が生じることがないように新しい人を雇用する必要があり、日本ではその時期が4月に慣例化されてきた経緯があります。
 ところで、勉学を通して身につけてきた知識や経験を実際に生かす段階にきて、大きな期待を胸に新しい環境に踏み出した若者が、就職の後すぐにその組織を離れるという現象が起きていることが話題となっています。自分ではその意志を伝えにくいのでしょうか、その手続きを代行する業者が存在しているほどです。
 ある代行業者からの発表によると、4月1日に5人、2日に8人、そして3日には18人から依頼があったとのことです。その数は昨年の倍になっています。その理由として最も多いのは、就職前の説明と実態が違うことで、例えば、給与が聞いていた額より少ない、休日出勤の必要があると聞いていなかった、などの労働条件に関することのようです。
 労働市場には、労働力が不足して求人に対する応募が少ない状況を売り手市場と、労働力が過剰で就職が難しい買い手市場とがあります。今日の日本は、少子高齢化が進行して労働力が不足している状態ですので、募集の段階で労働条件をよく見せすぎている傾向があるのではないかと、代行業者は語っていました。そして、離職事例のうちの約2割は組織の側に非があって、俗にいうブラック企業が多いとのことです。6割が相互のコミュニケーション不足や勘違いが原因、残りの2割は離職する側に弱さや認識の足りなさがあった事例のようです。
 昨年の厚生労働省の発表によると大学卒業者の3年以内の離職率は34.9%で、過去15年で最も高い数値を示していました。労働条件については、雇う側と雇われる側で認識が共通していることはもちろんのこと、その中に法的な違反や基本的人権の侵害がないことが求められています。教皇が掲げたこの「労働条件」という意向を機会に、労働を通して社会に貢献する一人ひとりの価値に思いをいたし、「労働条件」を大切にする社会となるようにと、祈り願ってまいりましょう。