2025年8月  3.『はだしのゲン』
 広島、長崎での被爆80年の慰霊祭など、平和を祈る集いに心を重ねて、核兵器廃絶の思いを新たにする日々が続いています。日本の教会の意向でも、第二次世界大戦から80年を経た今日においてもなお、世界各地で起きている戦争・紛争の愚かさを悟ることができるようにと、私たちを祈りに招いています。
 自らの被爆体験をもとに綴った中沢啓治の漫画『はだしのゲン』が再び話題にのぼっています。作者は反戦漫画として描きたかったのではなく、生きることの意味を込めた人間愛をテーマとしていました。しかし、描写の中に感じられる悲しみや苦しみを通して、読者には二度と戦争が起きないように、また核兵器が用いられることがないようにとの思いを抱かせることから、平和を祈り願う人々の共感を呼んでいます。今では英語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ノルウェー語、ポーランド語などのヨーロッパの言語に、そして韓国語、インドネシア語、タイ語などアジアの言語にも翻訳され、その数は24以上にのぼります。また、映画やアニメーション、テレビドラマ化によって多くの人たちがこの作品に触れることができるようになりました。
 汐文社刊行のコミック版『はだしのゲン』全10巻は、図書館の蔵書としている小学校がある一方で、描写があまりにも刺激的なために、平和教材から除外している市町村の教育委員会もあります。1945年8月6日、広島市に閃光が走ったときに、小学校の校門近くにいた中沢啓治ご本人は、偶然にも柱の影となっていたので無傷でしたが、周囲の人は皆全身の皮が焼け剥がれた姿で呻いていたのでした。自宅へもどると、父、姉、弟が木材の下敷きになって命を落としました。この瞼に焼き付いた光景を自ら描写したものは、刺激的でないはずがありません。だからこそ、私たちを平和への願いに導く力があるのでしょう。
 もし、『はだしのゲン』に出会うことがあれば、その時の思い、心の動きを周囲の人と分かち合って、平和に向かう力を養っていきたいものです。